隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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160.捨て駒

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「陛下、これは一体どういう………」

懸命に状況を見極めようとするブロンザルドの宰相が、小さな眼を懸命に見開きながらセヴランを見た。

「………貴様、私を謀ったな!」
「は…………?」

セヴランは突然、バルテ伯爵令息に向かって怒りを顕にした。
一方のバルテ伯爵令息の方は、ルドヴィクに斬りつけられた衝撃と突然怒り出したセヴランの豹変ぶりに戸惑うだけで、セヴランの意図に気がついていないようだった。

「貴重な魔石を#無断で使用し__・__、#我が息子に成りすますとは…………!」

セヴランは大股でバルテ伯爵令息に近寄ると、腰の立たない令息の胸ぐらを掴み上げた。

「へ、陛下…………っ?!」

狼狽したバルテ伯爵令息が、上擦った声を上げた。
だが、そんな声など聞こえないかのように、セヴランはバルテ伯爵令息の首を締め上げた。

「ぐ…………っ、ああ………」

苦しげな呻き声が、微かに漏れ出る。
セヴランがパトリスの替え玉にしていたバルテ伯爵令息に全ての責任を押し付け、口封じのために処分しようとしているのは、明白だった。

止めるべきなのだろうか。
アリーチェが迷っていると、アリーチェの隣りにいたルドヴィクが動いた。

「己に忠誠を誓った部下も、お前にとっては所詮捨て駒なのだな」

そう呟いたルドヴィクの深いエメラルド色の隻眼が、侮蔑の色を宿したかと思うと、何の躊躇いもなく、ルドヴィクが力任せにセヴランの腕を締め上げたのだった。

「うああああっ!」

セヴランとて、幾らかは体を鍛えているのだろうが、『隻眼の騎士王』とまで謳われるルドヴィクと比較すると、どちらが優れているのかは明白だった。

そんなルドヴィクに腕を締め上げられたセヴランが、大絶叫せざるを得なかったのだろう。
いつもは善人ぶって、優しく声をかける様をみせていたのが、今では怒り狂う姿を隠そうとすらもしなくなった。

「おのれ………!」

苦悶に顔を歪ませたセヴランは、ルドヴィクに憎しみを込めた視線をぶつけてきた。

「さては、この男もお前が唆して、陥れようとしたのだな………!?」

セヴランの、薄い灰色の瞳が明らかに危険な光を帯びた。
の頭の回転だけは早いらしい。
その狡猾さに、アリーチェは驚きを通り越して感心すらしたくなった。 
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