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159.偽パトリスの正体

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「ほ、本物は私の方だ!」

偽物のパトリスが、半ば叫び声に近い怒声を上げる。
すぐに嘘だと分かることなのに、パトリス本物を目の前にしてもなお、精一杯の虚勢を張って『パトリス・ブロンザルド王太子』を演じ続けるのは、偽物がセヴランの信奉者であるか、若しくは脅されているのかーーー。
何れにせよ、彼にはそうしなければならないという使命感に駆られていた。

「………愚かだな」

アリーチェの側で、ルドヴィクはただ一言そう呟いたかと思うと、いつの間にか手にしていた剣で、偽物のパトリスが身につけていたマントを留めるための大きなブローチを、文字通り一刀両断にした。

「…………っ、何を…………っ!」

声を上げたのは、偽パトリスではなく、セヴランだった。

「ただ、つまらないまやかしを取り除いただけだ」

流れるような仕草でルドヴィクが剣を収めると、ばさりと音を立てて偽パトリスのマントが床へと滑り落ちた。
その上には、真っ二つに割れた魔石のブローチが見える。

「………あ………」

斬られた、と思ったのだろう。
偽セヴランは腰を抜かしたらしく、小さく呻き声を上げ、へなへなとその場にへたり込んだ。
しかしその姿はつい先程までの亜麻色の髪と薄い灰色の瞳をした、優しげな風貌の青年ではなく、癖のある黒髪に榛色の瞳の、鋭い目つきの、パトリスとは似ても似つかない青年だった。

「………あなたはバルテ伯爵家の…………」

偽パトリスの正体を口にしたのは、王妃だった。
だが先程と同じく、驚く様子は全くない。

「バルテ伯爵家………?」

ブロンザルドの貴族を全て知っている訳ではないが、バルテ伯爵家という名前には馴染みがなかった。

「ええ。武芸に秀でた家柄なのだけれど………彼はその次男で、ずっとセヴラン様に付き従っていた衛兵の一人ですわ」

このような状況下であるにも関わらず、アリーチェやルドヴィクにも分かるように、王妃が丁寧に說明をしてくれる。
おそらくバルテ伯爵令息は、セヴランの企みを知る数少ない人物であり、尚且つセヴランに忠誠を誓ったからこそ、今回この役目を任されたのだろう。
茫然として小刻みに震えるバルテ伯爵令息を眺めながら、アリーチェはそんなことを考えていた。
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