上 下
158 / 351

157.二人の王太子

しおりを挟む
おそらく宰相をはじめとしたブロンザルドの重臣達にすら、カヴァニス滅亡の真相は知らされていない様子だった。
説明を求めるかのようにセヴランに訴えかけるが、そんな臣下の様子にすら気が付かない程に、セヴランは興奮していた。
まるで何かに取り憑かれたかのような豹変ぶりは、セヴランの本性を知っているアリーチェですらも驚きを隠せない。

しかし、ルドヴィクはそんなセヴランを目の当たりにしてもなお、全く動じる様子はなく、ただじっとセヴランやティルゲル、そしてブロンザルドの貴族達の出方を見極めているようだった。

「…………愚かだな」

ただ一言、ルドヴィクが溜息と共に零すと、セヴランの表情は一気に憎しみに染め上げられた。

「黙れ!卑しい血の流れる庶子の分際で…………!何故貴様は私の邪魔ばかりする!」

酷い侮辱の言葉に、アリーチェは怒りが込み上げて来るのを感じた。
それはルドヴィクから直接彼が左目を失った経緯を聞いたときに感じた、憤りと似ていた。
謂れのない侮蔑の視線を向けられ、罵られても尚真っ直ぐに前を向き続けることが出来るルドヴィクのほうが、私利私欲のためだけに沢山の人の命を犠牲にすることを何とも思わず、善人の仮面を被って人を貶めるセヴランやティルゲルのほうがずっと卑しく悍ましい。
その本性を全て白日の下に晒し、ルドヴィクの無実を証明できたらどんなにいいだろう。
そうすれば、何の躊躇いもなく、何の罪悪感もなく、ルドヴィクにこの胸を焦がす感情を心のままに告げることが出来るのに。
アリーチェは強く、強くそう思った。
その時だった。

「………卑しいのはあなたの方ですよ、

徐ろに広間の後方にある扉が開く音がして、それとほぼ同時に弱々しいのに、はっきりと通る声が部屋中に響いた。

その場にいる全員が、一斉に声の方へと視線を向けると、そこにはルドヴィクの側近であるクロードに付き添われたパトリスが立っていた。
途端に、貴族たちが一斉にざわつき始めた。
皆一様に、玉座の近くにいるパトリスと、後から現れたパトリスを交互に見比べている。

「お、王太子殿下が二人………?」
「一体、どういうことだ?」
「何が起こっている?」

聞こえてくるのは、そんな会話ばかりだったが、アリーチェにとってはそんな内容よりも、パトリスの無事を確認出来たことのほうが大切だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

【R18】私は婚約者のことが大嫌い

みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。 彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。 次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。 そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。 ※R18回は※マーク付けます。 ※二人の男と致している描写があります。 ※ほんのり血の描写があります。 ※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

処理中です...