157 / 351
156.剥がれる仮面
しおりを挟む
「そ、それは………っ」
ルドヴィクの指摘に、それまで余裕の態度を示していたセヴランとティルゲルが、動揺を顕にした。
「イザイアからカヴァニスを守るためというのであれば道理は通るが、カヴァニスに出入りしているのは、衛兵だけではなく、鉱山の関係者ばかりだというのは、一体どう説明をする?」
セヴランが言い訳として挙げるであろう尤もらしい理由を、先回りして挙げるルドヴィクは、騎士道の精神をそのまま体現したような高潔さが滲み出ている。
アリーチェは胸の中でせめぎ合う、ルドヴィクへの想いと彼を信じたいという気持ち、そして彼を信じきれずに込み上げる不安を押し殺しながら、ただじっとルドヴィクを見つめる。
「何故そのような………、…………っ!」
反論しようとするティルゲルを止めたのは、他でもないセヴランだった。
左手でティルゲルを制すと、また一歩、アリーチェの方へと近づく。
「それは、破壊し尽くされたカヴァニスの王都復興の為に必要な魔石を運んで貰っているからですよ」
何食わぬ顔で、セヴランが反論した。
先程の動揺はほんの一瞬の事で、状況を見極めて、すぐに切り替えをする辺りは流石に狡猾な国王らしいと思いながら、アリーチェはほんの少し目を伏せる。
「魔石………ね。その魔石の巨大な鉱脈がカヴァニスで発見されたから、カヴァニスを手中に収めようとしたのだろう?」
ルドヴィクが呆れたように溜息を漏らすと、それまでは穏やかな雰囲気を醸し出していたセヴランの目つきが変わった。
「私自身も魔石を使っておいて言えた義理ではないが、これは人間が手を出すべき代物ではないことくらい、分かっているだろう」
「うるさい!!」
静かにセヴランを諌めようとしたルドヴィクに向かって、突然セヴランがヒステリックに叫んだ。
「この世に存在する魔石は全て、私のものだ!誰にも渡しはしないぞ!」
薄墨色の眼をかっと見開いたかと思うと、物凄い勢いで捲し立てるセヴランの豹変ぶりに、その場にいた誰もが驚愕の表情を浮かべた。
柔和で人の良さそうな、けれどもこれといった特徴のない国王の仮面が剥がれ、魔石の魅力に取り憑かれ、野心を剥き出しにし、己の欲望のままに振る舞う醜い壮年の男の本性が顕になった瞬間だった。
「へ、陛下…………?」
セヴランの側に控えていたブロンザルドの宰相までもが、動揺を隠せないでいるようだった。
ルドヴィクの指摘に、それまで余裕の態度を示していたセヴランとティルゲルが、動揺を顕にした。
「イザイアからカヴァニスを守るためというのであれば道理は通るが、カヴァニスに出入りしているのは、衛兵だけではなく、鉱山の関係者ばかりだというのは、一体どう説明をする?」
セヴランが言い訳として挙げるであろう尤もらしい理由を、先回りして挙げるルドヴィクは、騎士道の精神をそのまま体現したような高潔さが滲み出ている。
アリーチェは胸の中でせめぎ合う、ルドヴィクへの想いと彼を信じたいという気持ち、そして彼を信じきれずに込み上げる不安を押し殺しながら、ただじっとルドヴィクを見つめる。
「何故そのような………、…………っ!」
反論しようとするティルゲルを止めたのは、他でもないセヴランだった。
左手でティルゲルを制すと、また一歩、アリーチェの方へと近づく。
「それは、破壊し尽くされたカヴァニスの王都復興の為に必要な魔石を運んで貰っているからですよ」
何食わぬ顔で、セヴランが反論した。
先程の動揺はほんの一瞬の事で、状況を見極めて、すぐに切り替えをする辺りは流石に狡猾な国王らしいと思いながら、アリーチェはほんの少し目を伏せる。
「魔石………ね。その魔石の巨大な鉱脈がカヴァニスで発見されたから、カヴァニスを手中に収めようとしたのだろう?」
ルドヴィクが呆れたように溜息を漏らすと、それまでは穏やかな雰囲気を醸し出していたセヴランの目つきが変わった。
「私自身も魔石を使っておいて言えた義理ではないが、これは人間が手を出すべき代物ではないことくらい、分かっているだろう」
「うるさい!!」
静かにセヴランを諌めようとしたルドヴィクに向かって、突然セヴランがヒステリックに叫んだ。
「この世に存在する魔石は全て、私のものだ!誰にも渡しはしないぞ!」
薄墨色の眼をかっと見開いたかと思うと、物凄い勢いで捲し立てるセヴランの豹変ぶりに、その場にいた誰もが驚愕の表情を浮かべた。
柔和で人の良さそうな、けれどもこれといった特徴のない国王の仮面が剥がれ、魔石の魅力に取り憑かれ、野心を剥き出しにし、己の欲望のままに振る舞う醜い壮年の男の本性が顕になった瞬間だった。
「へ、陛下…………?」
セヴランの側に控えていたブロンザルドの宰相までもが、動揺を隠せないでいるようだった。
1
お気に入りに追加
444
あなたにおすすめの小説
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る
ムーン
ファンタジー
完結しました!
魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。
無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。
そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。
能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。
滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。
悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。
悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。
狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。
やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。
【R18】私は婚約者のことが大嫌い
みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。
彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。
次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。
そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。
※R18回は※マーク付けます。
※二人の男と致している描写があります。
※ほんのり血の描写があります。
※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる