隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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156.剥がれる仮面

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「そ、それは………っ」

ルドヴィクの指摘に、それまで余裕の態度を示していたセヴランとティルゲルが、動揺を顕にした。

イザイア我が国からカヴァニスを守るためというのであれば道理は通るが、カヴァニスに出入りしているのは、衛兵だけではなく、鉱山の関係者ばかりだというのは、一体どう説明をする?」

セヴランが言い訳として挙げるであろう尤もらしい理由を、先回りして挙げるルドヴィクは、騎士道の精神をそのまま体現したような高潔さが滲み出ている。
アリーチェは胸の中でせめぎ合う、ルドヴィクへの想いと彼を信じたいという気持ち、そして彼を信じきれずに込み上げる不安を押し殺しながら、ただじっとルドヴィクを見つめる。

「何故そのような………、…………っ!」

反論しようとするティルゲルを止めたのは、他でもないセヴランだった。
左手でティルゲルを制すと、また一歩、アリーチェの方へと近づく。

「それは、破壊し尽くされたカヴァニスの王都復興の為に必要な魔石を運んで貰っているからですよ」

何食わぬ顔で、セヴランが反論した。
先程の動揺はほんの一瞬の事で、状況を見極めて、すぐに切り替えをする辺りは流石に狡猾な国王らしいと思いながら、アリーチェはほんの少し目を伏せる。

「魔石………ね。その魔石の巨大な鉱脈がカヴァニスで発見されたから、カヴァニスを手中に収めようとしたのだろう?」

ルドヴィクが呆れたように溜息を漏らすと、それまでは穏やかな雰囲気を醸し出していたセヴランの目つきが変わった。

「私自身も魔石を使っておいて言えた義理ではないが、これは人間が手を出すべき代物ではないことくらい、分かっているだろう」
「うるさい!!」

静かにセヴランを諌めようとしたルドヴィクに向かって、突然セヴランがヒステリックに叫んだ。

「この世に存在する魔石は全て、私のものだ!誰にも渡しはしないぞ!」

薄墨色の眼をかっと見開いたかと思うと、物凄い勢いで捲し立てるセヴランの豹変ぶりに、その場にいた誰もが驚愕の表情を浮かべた。
柔和で人の良さそうな、けれどもこれといった特徴のない国王の仮面が剥がれ、魔石の魅力に取り憑かれ、野心を剥き出しにし、己の欲望のままに振る舞う醜い壮年の男の本性が顕になった瞬間だった。

「へ、陛下…………?」

セヴランの側に控えていたブロンザルドの宰相までもが、動揺を隠せないでいるようだった。
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