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148.出立
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窓から差し込む夕陽が完全に消えようとする頃、扉を叩く音が聞こえた。
「アリーチェ王女。支度が整いましたので、どうぞこちらへ」
やってきたのがジルベールでも、イザイアの騎士でもなく、見知らぬ衛兵だったことにアリーチェは不安を感じた。
もしかすると、気が付かれてしまったのだろうかと落ち着かない気持ちになり、辺りの様子を伺う。
「心配されなくとも、陛下は城門の所でお待ちです」
精一杯平静を装っているつもりだったのに、呆気なく気が付かれてしまったことに焦ったが、幸いなことに衛兵がアリーチェの気持ちを全く理解していなかったことにほっと胸を撫でおろした。
「………そうですか」
セヴランの動向など知りたくもなかったが、ある意味勘違いさせておいたほうが警戒はされないだろう。
アリーチェはそれ以上何も喋ることなく促されるままに城門へと向かった。
「ああ!予想通りとても良くお似合いですね」
アリーチェを出迎えたセヴランが、満面の笑みを浮かべる。
この世で最も憎むべき男に褒められても全く嬉しくないが、アリーチェはぎこちない作り笑いを浮かべてみせた。
セヴランに促されるままに馬車に乗り込むと、室内は甘い匂いに包まれていた。
香でも焚いたのだろうか。
決して強い香りではないが、妙に鼻につく匂いだった。
「こんなにも美しいあなたを迎えることが出来て、嬉しい限りですよ」
先程鏡に映った自分の姿は、まるで死人のような顔つきで、イザイアでルドヴィクへの復讐に燃えていた頃とは比べ物にならないほど酷い顔をしていた。
それなのにそんな自分を美しいと表現するということは、セヴランとはとことん気が合わないのだろう。
そんなことを考えているうちに、馬車の扉が閉められた。
ここからブロンザルドの王都まではどのくらいかかるのかは知らないが、この場所から既にセヴランと二人きりになるなど想像しておらず、アリーチェは血の気が引いていくのを感じた。
「まだ出発前だというのに、顔色が悪いですね。そんな体では、丈夫な子が埋めませんよ?」
アリーチェの心を知ってか知らずか、セヴランはアリーチェがさらに青ざめるような言葉を言い放つ。
何か言い返さなければと思うのに、頭の中が真っ白になってしまい、何一つとして言葉が頭に浮かんでこない。
それがアリーチェの、セヴランに対する嫌悪感のせいではなく、馬車の中に立ち込める香りのせいだということに気がつくはずもなく、アリーチェは彼女自身が気が付かないまま、ゆっくりと意識を失っていくのだった。
「アリーチェ王女。支度が整いましたので、どうぞこちらへ」
やってきたのがジルベールでも、イザイアの騎士でもなく、見知らぬ衛兵だったことにアリーチェは不安を感じた。
もしかすると、気が付かれてしまったのだろうかと落ち着かない気持ちになり、辺りの様子を伺う。
「心配されなくとも、陛下は城門の所でお待ちです」
精一杯平静を装っているつもりだったのに、呆気なく気が付かれてしまったことに焦ったが、幸いなことに衛兵がアリーチェの気持ちを全く理解していなかったことにほっと胸を撫でおろした。
「………そうですか」
セヴランの動向など知りたくもなかったが、ある意味勘違いさせておいたほうが警戒はされないだろう。
アリーチェはそれ以上何も喋ることなく促されるままに城門へと向かった。
「ああ!予想通りとても良くお似合いですね」
アリーチェを出迎えたセヴランが、満面の笑みを浮かべる。
この世で最も憎むべき男に褒められても全く嬉しくないが、アリーチェはぎこちない作り笑いを浮かべてみせた。
セヴランに促されるままに馬車に乗り込むと、室内は甘い匂いに包まれていた。
香でも焚いたのだろうか。
決して強い香りではないが、妙に鼻につく匂いだった。
「こんなにも美しいあなたを迎えることが出来て、嬉しい限りですよ」
先程鏡に映った自分の姿は、まるで死人のような顔つきで、イザイアでルドヴィクへの復讐に燃えていた頃とは比べ物にならないほど酷い顔をしていた。
それなのにそんな自分を美しいと表現するということは、セヴランとはとことん気が合わないのだろう。
そんなことを考えているうちに、馬車の扉が閉められた。
ここからブロンザルドの王都まではどのくらいかかるのかは知らないが、この場所から既にセヴランと二人きりになるなど想像しておらず、アリーチェは血の気が引いていくのを感じた。
「まだ出発前だというのに、顔色が悪いですね。そんな体では、丈夫な子が埋めませんよ?」
アリーチェの心を知ってか知らずか、セヴランはアリーチェがさらに青ざめるような言葉を言い放つ。
何か言い返さなければと思うのに、頭の中が真っ白になってしまい、何一つとして言葉が頭に浮かんでこない。
それがアリーチェの、セヴランに対する嫌悪感のせいではなく、馬車の中に立ち込める香りのせいだということに気がつくはずもなく、アリーチェは彼女自身が気が付かないまま、ゆっくりと意識を失っていくのだった。
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