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145.塔の外へ

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ジルベールに横抱きにされたままという形ではあったが、アリーチェは何日かぶりに東の塔の外へと出ることが出来た。
もう既に夕方になっていたが、夕日に照らされた庭が眩しかった。

きょろきょろと周囲を見渡すと、東の塔の入口から少し離れた所に何人かの衛兵が立っていた。
一瞬アリーチェの顔が強張るが、彼らは満面の笑みを浮かべた、ジルベールを迎えた。

「無事に王女をお連れ出来たか」
「ああ、待たせたな」

その口ぶりから、彼らは衛兵ではなく、イザイアの人間がブロンザルドの衛兵に扮しているのだということが伺えた。
それに気がつくと、アリーチェは何だかそわそわと落ち着かない気持ちになってきた。

それは、セヴランの手から逃れるために脱獄した背徳感によるものではなく、もしかしたらルドヴィクに再会出来るかもしれないという淡い期待が無意識のうちに胸の中で膨らんでいくからだった。

ここはブロンザルド王国敵の領地の真っ只中だ。
そんな危険な場所に、国王自らが危険を省みずに乗り込んでくる訳がないと分かっているのに、それでも彼が自分を迎えに来てくれるのを期待するなど、あまりにも愚かな発想だと、自分でも思う。
ましてアリーチェは、ルドヴィクの許可も得ずに勝手にイザイアの城から逃げ出したのだ。

未だにルドヴィクの真意は解らないが、罪人同然の自分を、彼が迎えに来るなど有り得ない。

それでも、会いたい。

アリーチェは零れ落ちそうになるその願いを心の内に押し止めようと、唇をぎゅっと噛み締めた。
その時だった。

「何をしている?」

突然ぞわりとするような耳障りな声が、東の塔に面した庭園に響き渡った。

「………っ、国王陛下…………」

ジルベールや、ほかの騎士達の表情が一瞬で強張った。
恐る恐る声のした方に目を向けると、そこには案の定、セヴランが立っていた。
灰色の瞳だけが別の生き物のように光を放っているが、それ以外はなんの特徴もない、印象の薄い顔を、不機嫌そうに歪めたセヴランは大きく溜息をついた。

「アリーチェ王女を私の部屋に連れて来いと命じただけなのに、何故こんなに時間がかかっているのだ?」
「も、申し訳ありません………!」

ジルベールが慌てた様子で、謝罪の言葉を口にした。
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