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143.罪の意識

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重い沈黙は、パトリスの迷いを象徴しているようだった。
ブロンザルドの王都には、彼の帰りを待っている者たちがいると言っていたし、何よりもパトリスはセヴランの野望を砕くという大きな目標がある。
そう考えるとジルベールの提案は、またとない好機に違いないのに、彼が迷う理由は一体何なのだろうとアリーチェは考えた。

「………お気持ちは大変ありがたいのですが、謹んで辞退させていただきます」

暫くして、心底申し訳無さそうなパトリスの声が響いた。

「それは何故、とお聞きしてもよろしいでしょうか?」

まるで初めからパトリスがそう答えると知っていたかのように、ジルベールはすかさずパトリスに問いかけた。

「………私には、あなた方に助けて頂く資格などありません」

物音一つ立てずにその言葉は、まるで懺悔のように聞こえた。

「それは、殿下がセヴラン国王の息子、だからですか?」

パトリスの姿は見えていないはずなのに、ジルベールには彼の姿が見えているかのように、ジルベールは目を細める。

「………その、通りです」

パトリスはか細い声で、ただそれだけ呟いた。
彼自身には全く非などなくとも責任を感じるほどに彼は優しいのだろう。
一瞬、初対面の頃にセヴランがイザイアによるカヴァニス侵略を止められなかったこととその原因を与えたことに責任を感じていると言っていたのを思い出す。
結局のところセヴランのそれは真っ赤な嘘で、セヴランが黒幕だったことを見抜けなかったのは自分の甘さが招いたことだ。
だが、これでパトリスを信じて、彼にも裏切られたとしたら、もう自分は二度と誰も信じられなくなってしまいそうだとアリーチェは思った。

「そうですか。それは実に残念ですね」

アリーチェが色々考えを巡らせていると、徐ろにジルベールが溜息をついた。

「それが殿下の決定ならば、私がとやかく言える立場ではありませんから、それに従いましょう。ですが、最後に一つだけ言わせて下さい。殿下がブロンザルド国王の行いに対して胸を痛め、責任を感じているのであれば、己が何をしなければならないのか、もう一度考えて頂きたいものですね。………では、私は麗しの姫君を無事にここから連れ出さねばなりませんので、これで失礼致します」

淀みなくそう早口で告げると、ジルベールはアリーチェを抱えたまま、塔の出口へと続く階段をゆっくりと下り始めた。
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