隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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141.迎え

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恐怖と絶望に、アリーチェは全身の毛が粟立つのを感じた。
確かに呼吸をしているはずなのに、息が苦しくて、目の前がくらくらする。
己の息遣いがやけに大きく聞こえた。

その間にも、足音はゆっくりと、だが確実に近づいてきていた。
そうして足音が部屋の前で止まった瞬間、アリーチェは部屋の片隅で蹲り、扉に背を向けると、ぎゅっと強く目を瞑った。
だが、東の塔に入ってきた人物は、アリーチェが予想もしなかった言葉を口にした。

「お迎えに上がりましたよ、

どこか飄々とした、聞き覚えのある声。
そして何よりも声の主はアリーチェを『アリス嬢』と呼んだ。
アリスという名を知っているのは、本当に限られた人間だけだ。

いつの間にか、強く瞑っていた目を大きく見開いていた。
そして、ゆっくりと扉の方を振り返る。

「………ジルベール卿………?!」

そこには、ブロンザルドの衛兵が着用している鎧を身につけた、ジルベールだった。

「覚えていて下さっだだなんて、光栄ですね」

ジルベールは感慨深そうに目を細めると、嬉しそうに破顔する。
だが、アリーチェの頭の中は滅茶苦茶になっていた。

そもそもイザイアの騎士であるはずのジルベールが何故ブロンザルドの衛兵の格好をしているのか。
どうしてアリーチェの居場所が分かったのか。
そして何よりも、ルドヴィクは一緒にブロンザルドまで来ているのだろうか。

尋ねたい事は山のようにあるのに、全く頭の中の整理が追いつかず、どう振る舞えばいいのかすらも分からなかった。

「どうして私がここにいるのか、と訊きたそうな表情をしてらっしゃいますね」

ジルベールはニヒルな笑顔を浮かべると、恭しく頭を下げてみせた。
こんな真似をするのは、本物の彼としか思えない。
それでもまだ確信が持てず、アリーチェは彼に向かって問いかけた。

「本当に、ジルベール卿なのですか………?」

アリーチェの体を支配していた緊張から一気に解き放たれ、アリーチェは思わずその場にへたり込んだ。

「ええ、私です。囚われのお姫様を救出に来た、白馬の王子様ですよ」

そう言ってジルベールは片目を瞑ってみせた。
このときほど、ジルベールの軽口が心地よいと感じたことはなかった。
ゆっくりと笑顔を浮かべるのとほぼ同時に、アリーチェの虹色の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
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