隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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140.パトリスの想い

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「………どうしてそこまで、わたくしの事を………」

約束が果たされなければ、自分の命を差し出すとまで言われ、アリーチェは驚きを隠せなかった。

パトリスは己の抱える強い罪悪感に苛まれながら、少しでもアリーチェにその償いをしようとしているのだろう。
だが、パトリスがそうまでしなければならない理由が、アリーチェには理解できなかった。

責任感が強い、といえばそうなのかもしれない。
親が子を選べないのと同様に、子も親を選ぶことは出来ない。
パトリスの最大の不運は、魔石の力を無効化する体を持って生まれたことではなく、セヴランの息子として生を受けた事だろう。
そんな父親の元で、王太子という地位は与えられたものの、ずっと蔑まれ、実の親から名すらもまともに呼ばれなかったパトリスがこれで万が一命を落とすことになったとしたら、一体彼の人生は何だったのかと考えてしまう。

「………申し上げたはずです。私はあなたをお慕いしていると………」

アリーチェの問いかけに、パートナーははにかみながら理由を告げる。

「ずっと淡い恋心を抱いていましたが、………日を負うごとに、あなたへの気持ちは鮮やかに輝きだしてきたのです。少なくとも、あなたを想っている時、私は生きていて良かった、生まれてきて良かったと心から感じました」
「…………」

アリーチェは何と反応すればよいのか分からず、ただ押し黙る。
パトリスはそれを気にする様子は見せず、変わらぬ穏やかな声で、彼の気持ちを吐き出してゆく。

「………アリーチェ王女のお気持ちも、その心に私が入り込む余地などないことも、知っています。………ですがそれでも、私はあなたに、幸せになってもらいたいのです。………私の分まで………」
「パトリス様………」

まるで遺言のような台詞に、アリーチェは無意識のうちに、パトリスを『王太子殿下』ではなく名で呼んでいた。
彼の気持ちに応えられない自分幸せの為に、命を擲っても構わないとまで言える彼の深い愛に、胸が一杯になる。

ルドヴィクではなく、パトリスを選ぶことが出来たら、どんなに幸せだろうと思う。
だが、パトリスはきっと、同情からアリーチェが自分を選んだとしても喜ばないような気がした。

「ごめんなさい………」

ただ一言、アリーチェが謝罪の言葉を口にしたとき、階下の扉の鍵が開く音がした。
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