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132.不肖の息子
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アリーチェの呼びかけに、パトリスは安堵したような、けれどもどこか悲しそうな表情を浮かべた。
ずっと聞いていた落ち着いた、穏やかな声と全く同じ印象の外見だが、それよりもまず気がつくのは、哀れな程に痩せ細った体だった。
アリーチェ自身も、イザイアでルドヴィクに幽閉されていた頃と、この場所に閉じ込められてからの二度の拒食により、かなりの栄養失調に陥っていたが、パトリスの体はその比ではなかった。
上背があるせいか、その細さが強調されているようだ。
顔色も悪く見えるが、それが栄養失調によるものなのか、それとも長い時間この場所に閉じ込められていたせいなのかは分からなかった。
食事は充分に与えられていたはずなのに、彼がこのような姿なのは、おそらくアリーチェと同様に、心理的な要因から体が食事を受け付けなかったのだろう。
「随分と惨めな姿になったものだな」
それは実の息子に掛けるものとは思えないような、嘲りを含んだ言葉をぶつけたセヴランは、パトリスの姿を頭の天辺から足先まで眺めて溜息をつく。
「………このような姿ではもう、誰もお前のことを王太子だなどとは思わないだろうな」
くつくつと喉の奥で嗤うと、セヴランはアリーチェに向き直った。
「アリーチェ王女、これがあなたが気にかけてくださった不肖の息子です」
先程までの狂気は鳴りを潜め、初対面の頃の無害そうな笑顔を浮かべたセヴランは、不気味だった。
今更パトリスを紹介してくる意図が分からず、アリーチェが顔を顰めるが、セヴランはそんなことは全く気にしていないようだった。
一方のパトリスは、立っているのもやっとの状態だというのに、両眼だけが別の意志を持っているかのように、強い意志を宿して爛々と光っていた。
「………何故、これを殺さなかったのかと思っているのでしょう?」
セヴランが、何も言わずにただじっとしているアリーチェのほうにゆっくりと歩み寄ってきた。
アリーチェの気持ちとは全く異なる、見当違いな推察だったが、もしかするとこの男の真意が分かるのかもしれない。
アリーチェはじっとセヴランを睨み付けたまま次の言葉を待った。
「こんな役立たずにも、使い道があったから生かしておいたのですよ」
ちらりとパトリスの方に視線を投げたセヴランが、ほんの少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。
ずっと聞いていた落ち着いた、穏やかな声と全く同じ印象の外見だが、それよりもまず気がつくのは、哀れな程に痩せ細った体だった。
アリーチェ自身も、イザイアでルドヴィクに幽閉されていた頃と、この場所に閉じ込められてからの二度の拒食により、かなりの栄養失調に陥っていたが、パトリスの体はその比ではなかった。
上背があるせいか、その細さが強調されているようだ。
顔色も悪く見えるが、それが栄養失調によるものなのか、それとも長い時間この場所に閉じ込められていたせいなのかは分からなかった。
食事は充分に与えられていたはずなのに、彼がこのような姿なのは、おそらくアリーチェと同様に、心理的な要因から体が食事を受け付けなかったのだろう。
「随分と惨めな姿になったものだな」
それは実の息子に掛けるものとは思えないような、嘲りを含んだ言葉をぶつけたセヴランは、パトリスの姿を頭の天辺から足先まで眺めて溜息をつく。
「………このような姿ではもう、誰もお前のことを王太子だなどとは思わないだろうな」
くつくつと喉の奥で嗤うと、セヴランはアリーチェに向き直った。
「アリーチェ王女、これがあなたが気にかけてくださった不肖の息子です」
先程までの狂気は鳴りを潜め、初対面の頃の無害そうな笑顔を浮かべたセヴランは、不気味だった。
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「………何故、これを殺さなかったのかと思っているのでしょう?」
セヴランが、何も言わずにただじっとしているアリーチェのほうにゆっくりと歩み寄ってきた。
アリーチェの気持ちとは全く異なる、見当違いな推察だったが、もしかするとこの男の真意が分かるのかもしれない。
アリーチェはじっとセヴランを睨み付けたまま次の言葉を待った。
「こんな役立たずにも、使い道があったから生かしておいたのですよ」
ちらりとパトリスの方に視線を投げたセヴランが、ほんの少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。
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