隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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129.気遣い

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アリーチェが東の塔に閉じ込められて一週間ほどが過ぎた、ある日。

既に昼食まで済んでいるというのに、階下で扉の開く音がした。

「……………っ!」

パトリスは慌てて口を噤み、鎖が音を立てないように、注意深く動きながら体勢を整えているようだった。

ゆっくりと階段を上がってくる足音の中に、いつもここにやってくる衛兵たちのものとは異なる足音が混じっていることに気がついて、アリーチェは身を固くした。

入り口から一番遠い壁際に移動して、じっと入口を睨み付けた。

「アリーチェ王女」

一歩ずつ近づいてきた足音は、迷わずアリーチェに与えられた部屋の前まで来ると、立ち止まった。
同時に、穏やかな声が響きわたる。
案の定、そこに立っていたのはアリーチェが最も憎んでいる男ーーーセヴラン・ブロンザルドだった。
それは、いつも聞いているパトリスのものとよく似ていたが、それよりもずっと無機質で冷たいもののように聞こえた。

「殆ど食事を取っていないと聞きました。お気に召さなかったのですか?」

声と同じく、一見穏やかなのに冷たさを感じる灰色の眼を悲しそうに細めるセヴランに、アリーチェは何も答えずにただじっとセヴランを見つめる。
するとセヴランは衛兵に指示出し、入口の鍵を開けさせると、自ら中へと入ってきた。

「ああ………こんなにも痩せてしまって………」

セヴランはまっすぐにアリーチェに歩み寄るとその場に屈み込み、青白い手を取る。

「指先もこんなに冷たくなっているではないですか」

大きな手がアリーチェの手を包み込み、優しく撫でる。
手の大きさは、おそらくルドヴィクと変わらないくらいだろう。
それなのに、その手がひどく恐ろしく、悍ましいものに感じられて、小さく身震いをした。
それは、この男に対して抱いている感情のせいなのだろうか。

思わず手を引っ込めたくなるのを堪え、平静を保とうと深く息を吸い込んだ。
このように優しく、不気味なほどに丁重に接しながらも、この場所からアリーチェを解放しようとしないこの男が、恐ろしく感じるのは、彼の本意が分からないからだ。

「そんなに震えなくても大丈夫です。準備が整えば、すぐにここから出して差し上げますから」
「………この牢の隣にいらっしゃる方も、一緒にですか?彼は、陛下の血の繋がったご子息なのでしょう?」

アリーチェを宥めるようにそう告げるセヴランを試すように、アリーチェは尋ねる。
するとセヴランの薄い唇が、残酷に釣り上がった。
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