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121.淡い恋心

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「わたくし………ですか?」

アリーチェは彼が何を言おうとしているのか、考える。
顔を合わせたこともない、どんな人間かも分からないというのにそこまでよく想ってくれているのは、嬉しく思う。
だが、自分よりももっとこの場に相応しい人物もいるはずなのに、何故アリーチェなのだろうか。
アリーチェが懸命に考えを巡らせるが、答えに辿り着くことは出来なかった。

「………こんな状況だからこそ話せることですが………実は、父が私とあなたを結婚させようとしたことを、嬉しく思っていました。父がカヴァニスを手中に収めるための結婚だと分かっていたはずなのに、喜んでしまったのです」

予想だにしなかったパトリスからの突然の告白は、戸惑いよりも驚きの方が大きかった。

「あ………あの………そう言っていただけるのは、大変に光栄ですけ!ど…………後衛わたくしたちは、直接お会いしたことはなかったはずですが………?」

激しく動揺しているせいか、アリーチェの気持ちをにょじつに声が震えてしまう。
すると、パトリスは微かに笑ったようだった。

「そうですね。それでも、大陸一の美姫と名高い、アリーチェ王女あなたの噂は聞いていましたし、………あなたの兄君とお会いしたときに、あなたの話を聞いて…………その、………密かに憧れていたのです………」

それまで淡々としていたパトリスの声が潤み、強い恥じらいを含んだように感じられて、アリーチェも何だかむず痒いような、不思議な気分だった。
異性から、こうして直接的に好意を向けられたのが初めてだからだろうか。
だが、その相手がルドヴィクではないことが、アリーチェの心を揺さぶる。
ふとした瞬間に、ルドヴィクに会いたいと思ってしまう。

「兄と………交流があったのですね」
「ええ。交流といっても、互いの国の王太子として顔を合わせた際に言葉を交わす程度でしたが、いつもあなたのことを、自慢げにあなたの話をしていたのが昨日の出来事のように、思い浮かんできます。…………彼は、今どうしていらっしゃるのですか?」

気恥ずかしさと秘めた想いを隠そうと、敢えてパトリスが口にした兄のことを話題にしたアリーチェに、パトリスは少しだけ、嬉しそうだった。
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