隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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120.パトリスの心

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「魔石を、燃やしたのですか………?」

確かに、魔石は鉱物であるにも関わらず熱に弱く、焚き火に焚べても消し炭になってしまうと聞いたことがあるが、まさか本当に燃やしたなどという話を聞くのは、初めてのことだった。

アリーチェの反応に、パトリスは力なく笑ったようだった。

「魔石を求める者にとっては、信じられない行動だったでしょう。………でも、少しでも魔石がこの世から無くなればいいとあの時は本気で思ったのです。………後悔していないかと言われれば、しています。………ただ、それは魔石を燃やしたことに対してではなく………そんな行動を取るよりも、例え刺し違えたとしても、あの時に父をこの手で殺めていれば良かったと、そう後悔しているのです」

次いで彼の口から語られたのは、衝撃的で悲し過ぎる彼の心の内だった。
実の父を殺せばよかったなどと思い詰めるまでの心境が理解できず、アリーチェはただ息を呑むことしか出来なかった。

「………別に魔石などなくとも、我々は十分に豊かな生活を送ることが出来ます。寧ろ魔石は便利な反面、人間の心身に悪影響を及ぼします。父はそれを承知の上で、『魔石の可能性の探求の為』といって罪を犯した人間などを使って人体実験を行っています。それは日を追うごとに残虐性を増し、それと共に父の人間性は失われていくようでした。………そんな残虐な行動を取る王を止められるのは私だけだったはずなのに………」
「王太子殿下………」

あの自分本位なセヴランの血を引いているにしてはあまりにも正義感が強く、高潔な精神の持ち主だ。
暴走を続ける父親を、一体どんな気持ちで眺め続けていたのだろう。

そう考えて、アリーチェはいつの間にか自分が彼を『パトリス王太子』本人だと確信していた事に気がついた。
信じていた気持ちをティルゲルにも、そしてセヴランにも裏切られた後だというのに、未だ顔も見えない相手を信じている自分のお人好し加減に、アリーチェは口元に微かな笑みを浮かべた。

「しかし、その場で殺されず、クスターの東の塔ここに幽閉されたのは、不幸中の幸いだったのでしょう。こうして、あなたと言葉を交わす機会が出来たのですから」

再び、石造りの床に鎖が擦れる事が耳に触れた。
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