隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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114.連行

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「………国王陛下」

すうっと息を吸い込むと、アリーチェは真っ直ぐにセヴランと、その後ろに控えるティルゲルを睨んだ。

「わたくしは、あなたと………父と、国を裏切ったティルゲルを許しません」

先程までの頼りない声とは打って変わって、凛と澄んだ、はっきりとした声を張り上げた。

「………は。何の力も持たないあなたに、一体何ができるというのですか?」

セヴランが、鼻で笑った。
おそらく彼の眼には、か弱い小娘がつまらない正義感を振りかざして、精いっぱいの虚勢を張っているようにしか映っていないだろう。

「確かにわたくしには優れた剣技があるわけでも、特別な能力がある訳でもありません。元王女という身分を取ってしまえば、ただの非力な小娘ですわ。………ですがあなたの手に入れたいものはわたくしがいなければ手に入らないのでしょう?」

アリーチェはセヴランを試すように、問いかける。
相手を挑発しすぎれば、スザンナに害が及ぶ。だからこそ、怒らせないように慎重に言葉を選ぶ。

「協力をしない、と言っているのですか?」

セヴランはせせら笑いながら、手にした魔石を握りしめた。

「………侍女を人質に取られてもなおそれだけ強気な態度がとれるとは………私は少々あなたを見くびっていたようです」

アリーチェを見つめるセヴランの灰色の瞳が細められた。

「非常に不本意ではありますが、少々お仕置きが必要なようですね。私は、素直で従順な淑女が好みなのです」
「では、わたくしは陛下の好みからは外れる、ということですわね」

吐き捨てるようにアリーチェが呟くと、セヴランは再び不気味な笑みを浮かべた。

「衛兵。そっちの侍女は地下牢へ、アリーチェ王女は東の塔の牢へ連れて行きなさい」
「東の………塔ですか?しかし、あそこは…………」

命じられた衛兵が、明らかに狼狽えた。

「聞こえませんでしたか?東の塔の牢へ閉じ込めるのです。手枷も足枷もしなくて大丈夫ですよ。彼女は私のですからね」
「は、はい!畏まりました!」
「待って………!せめて、スザンナと一緒に………!」

躊躇いがちにアリーチェを連れて行こうとする衛兵に、必死に抵抗しながら、アリーチェは叫んだ。

「何故、私があなたの言うことを聞かなければならないのです?己の置かれた立場を、よく考えたほうが良いのではないですか?」

為す術もなく連行されるアリーチェに、セヴランはただ嘲笑を浴びせただけだった。
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