隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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111.魔石の秘密(1)

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「何をする、とはまた面白い事を言いますね。もともとが身に着けていたこの魔石は、ティルゲル殿を通じて何も知らないカヴァニスの残党に貸し出した、私の所有物です。自分のものを取り戻しただけだというのに、その行動を責めるのは、おかしいのではありませんか?」

優しげな笑みを浮かべながら、セヴランはブローチを見つめる。

「それ、ではなくわたくしの侍女ですわ」

怒りを込めて、アリーチェが反論するが、セヴランの耳には届いていないようだった。

「大切なものは取り戻しましたから、はもう用済みです。………ああ、でも万が一の事態に備えて、人質保険として生かしておきましょうか。そうすれば間違ってもアリーチェ王女がこの城から逃げ出そうだなどという考えを抱くことはないでしょうからね」

セヴランの言葉に、再びアリーチェの目が大きく見開かれた。
笑いながら出来るような話の内容では、決してなかった。

アリーチェの足枷とするためだけに、スザンナを生かす。
それはつまり、アリーチェが用済みになれば、二人共殺されてしまうということを意味しているとしか思えなかった。
もとより、逃げ出そうなどという気持ちは持ち合わせていなかったが、セヴランの発言で逃げ出そうなどとは到底思えなくなる。

は地下牢に連れて行ってください。どのみちこの大きさの魔石を長時間身につけていたのですから、体力も消耗していて抵抗も出来ないでしょうけれどね」

衛兵に命じながら笑うセヴランは、まるで絶望に打ちひしがれるアリーチェ達の反応を愉しんでいるようにすら見えた。

「………やはり、魔石は便利なだけの石ではないのですね?」

様々な事実が一気に明かされ、アリーチェは混乱していたが、それでも必死に平静を装いながら、セヴランに噛み付く。

「ああ、余計なことまで喋ってしまったようですね」

やりやれ、というかのようにセヴランは肩を竦めると、面倒くさそうに溜息をついた。

「もう既に、知ってはならないことまで知ってしまっているのですから、ついでに教えて差し上げましょうか」

その瞬間、アリーチェを見据えるセヴランの視線が不気味な光を帯びたような気がした。
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