隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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110.襲い来る恐怖

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「カヴァニスの、宝石…………?」

聞いたことのない言葉だった。
それは、国宝か何かを指しているのだろうか。

確かにアリーチェが暮らしていた王城には宝物庫があったが、大したものは入っていなかったように記憶していたが、ブロンザルドのような大国が欲するような価値のあるものがあったのだろうか。
だが、ルドヴィクの話だと、カヴァニスの王城は全て焼け落ちてしまっていたはずだ。
万が一宝物が焼け残っていたとしても、略奪され、行方を知ることも難しいだろう。

「何の事を仰っているのか…………私には………」

自分達を捕らえたのは、おそらくその『カヴァニスの宝石』とやらの行方を知るためだろう。
ここで知らないと答えることで、もしかすると拷問をされるかもしれないという考えが頭を過ぎったが、この男に何を言っても変わらない気がした。
おそるおそる、アリーチェは事実をそのまま口にする。
一瞬、まるでセヴランの臣下のように彼の後ろに控えているティルゲルに視線を移したが、ティルゲルはアリーチェが自分を見ていることに気がついていながらも、ただまっすぐに前を向いているだけだった。

「分からないなら、今はそれで構いません」

セヴランから返ってきたのは、思っていたものとは違う言葉だった。
今は、という言葉が引っかかったが、とりあえずすぐにどうこうされることはないらしかった。

「………寧ろ何も知らないほうが、私にとっては都合がいいかもしれませんね………」

続いてセヴランは小さな声でそう呟いた。
同時に浮かべられた笑みの不気味さに、アリーチェは再び震え上がる。

どうして、こんなことになってしまったのだろう。
どこで間違ったのだろう。
何がいけなかったのだろう。
恐怖と怒りの入り混じった感情に支配された頭の片隅で、アリーチェはぼんやりとそんなことを考えていると、セヴランが徐に動いた。

「そういえば、そこの侍女にはもうは必要ありませんよね」

冷たい眼差しをスザンナに向けると、アリーチェの隣で彼女同様、衛兵に捕えられていた彼女に近付き、スザンナの胸元で輝いている魔石のブローチを乱暴に毟り取った。

「あ…………っ!」
「スザンナに何をするのですかっ?」

力任せに引き千切られたせいで、スザンナの胸元が開け、衝撃でスザンナは僅かに蹌踉めいて、悲鳴を上げた。
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