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109.セヴランの狂気

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「………あなたは………魔石の鉱脈さえ手に入れば、人の命などどうでも良かったのですか………?」

セヴランが話を止めたあとは不気味なほどに音のない、静まり返った部屋に、アリーチェの少し震えた、けれども澄んだ声が響いた。

「それは違いますよ、アリーチェ王女」

やんわりと微笑んだセヴランと、アリーチェはそのとき初めて視線が合った気がした。

「鉱脈だけではありません。私は、私の欲するもの全てを、我が手中に収めたいのです。そうすれば我が国はさらなる発展を遂げることができますからね。………その為に、が出るのは、悲しいことですが仕方のない事だと思っていますよ」

多少の犠牲。
その言葉に、アリーチェは再び言葉を失った。
手に入れたいものが思うように手に入らず、癇癪を起こす子供と何ら変わりはないではないか。
その為にアリーチェの家族やカヴァニスの国民は犠牲になったというのに、それを多少の犠牲という言葉で片付けられ、アリーチェの心の中は強い怒りと悲しみで満ちていく。

「………では、我が国が滅亡してしまったことに対して、罪悪感を抱いていると仰ったのは嘘なのですか?」

最初は弱々しかったアリーチェの声が、少しずつ大きく、強くなっていく。

「………人を傷付けないためにつく嘘もあるでしょう?」

セヴランは全く悪びれる様子もなく答えた。
薄ら笑いを浮かべたこの男の本心は分からない。
悲しいだとか、罪悪感だとか、幾度となく口にこそしているが、彼の中にはそんな感情が本当にあるのかと疑いたくなる。

自分本位の欲望を満たすためだけに、提案を断ったカヴァニスと、何故か敵視しているイザイアを陥れ、結果的にイザイアにカヴァニスを滅ぼさせたこの男は、狂気に支配されているとしか思えなかった。

「では、わたくしにカヴァニス再興をさせようとしたのは、イザイアを煽る為ですか?」

アリーチェは虹色の瞳に、強い気持ちを込めた。

「別に、カヴァニスがどうなろうと私には関係ありません。最終的に鉱脈と、カヴァニスの宝石が手に入れば、ね…………」

ふわりと微笑むセヴランの、細められた灰色の瞳の奥に得体の知れない光が見えて、アリーチェは背筋に冷たいものが伝っていくのを感じた。
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