隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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106.明かされる真実(3)

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どくん、と心臓が大きく跳ねるのをアリーチェは感じ、思わず両手で胸を抑えた。

「…………っ」

殆ど忘れかけていたはずの、燃え盛る紅くて熱い炎が、襲いかかってくる様子が瞼に蘇り、虹色の瞳が再び大きく見開かれた。

「そもそもの始まりは、カヴァニス王………あなたの父親にあるのですよ」

相変わらず穏やかな口調なのに、セヴランの表情は不気味さを孕んでいた。

「小国の分際で、我が国に逆らうなど………少し考えてみれば、どのような結果になるのかは分かったはずですよね。………それなのに、不可侵条約がある限りは安全だと思い込んでいた愚か者を『賢王』などと敬う民も同罪です」

セヴランはくつくつと喉の奥から笑い声を上げるが、アリーチェは強張った表情を崩すことはなかった。
父が、民が侮辱されても言い返すことすらも出来ない自分が情けないとも思ったが、セヴランの言っていることが何を指しているのかを想像し、愕然としていたからだ。

「一体、何を………?」

深く息を吸い込むと、アリーチェは力を込めて言葉を紡いだが、それは酷くか細く、弱々しいものだった。

「本当に姫様は何もご存知ない」

嘲笑うように声を上げたのは、ティルゲルだった。

「愚かで崇高なあなたの父君は、ブロンザルドと取引をしようとして、失敗したのですよ。………カヴァニスとブロンザルドの国境付近で発見された巨大な魔石の鉱脈が原因で、ね」

ティルゲルの口から語られた、全く知らない話しに、アリーチェは唇を戦慄かせた。

「そんな、話は…………」
「聞いていない?………そうでしょう。鉱脈の話は、私が内密に進めるように進言をしましたからな」

父が信頼していた忠臣が、君主である父を『陛下』と表現しなかったたことで、アリーチェの疑念の一つを、確信に変えていく。
この男は、父の信頼を裏切り、セヴランと内通していたのだ。

「ティルゲル………あなたは、いつから、お父様を…………?」

初めて聞く情報と、思いもよらない展開に、アリーチェの頭の中は完全に混乱していた。
何をどう確認すれば良いのかすらも分からず、定まらない視点でティルゲルを見つめながら、気を失いそうになりながらも何とか気力で意識を保っていた。

「………申し上げたでしょう。綺麗事では政は出来ないのですよ」

そう言って嗤うティルゲルは、仄暗い表情を浮かべているように見えた。
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