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105.明かされる真実(2)

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緊張で、指先が冷たくなっていく。
アリーチェはじっとセヴランを見つめたまま、浅く呼吸を繰り返す。

「あの方は、関係ありません………」

やっとのことで言葉を絞り出したアリーチェを、セヴランは嘲笑った。

「関係ない?そんなはずはないでしょう。それとも、敵であるはずのあの男を庇おうとするのは、他に何か理由でもあるのでしょうか?」

少しずつ、セヴランがアリーチェとの距離を詰めてくる。
逃げ出したいのに、衛兵達に捕らわれているせいで、自由に動くことも出来ない。
アリーチェは力なく首を横に振るが、セヴランはそんな彼女の仕草を一切無視した。

「例えば………ルドヴィクあの男に好意を抱いている、とか………?」

不意に耳元で囁かれた言葉に、アリーチェは文字通り頭の中が真っ白になった。
虹色に輝いていたはずの双眸からは光が失われ、絶望の色に染め上げられていく。
セヴランは、そんなアリーチェの反応を見、弾かれたように笑い出した。

「はっ、はははははは!まさか、図星ですか?気高く美しいカヴァニスの王女が、我々の罠に嵌った愚かで醜いイザイアの私生児に心を奪われるとは…………!」

セヴランは驚く様子もなく、大袈裟な程に笑い転げている。
それはどこか芝居がかったように見えたが、茫然自失のアリーチェには気がつく余裕などなかった。

愛する人が酷い侮辱を受けているのに、言い返すことすらも出来ない。
ただ俯き、叫びだしたくなる欲求を抑え込むことしか今のアリーチェには出来なかった。

「愚かですね………実に愚かです。あなたも、あなたの父親も。触らぬ神に祟りなし、と言うでしょう?余計なことを考えず、ただ私の言いなりになっていれば、自ずと栄光は手に入ったのです。それなのに…………」
「お、とう………さま…………?」

小さな呼吸の合間から、何とか言葉を紡ぐ。
敵に好意を抱いている自分はともかくとして、賢王として名高かった亡き父が、どうして愚かだなどと言われねばならないのだろう。

「どうして…………?」
「先程からそればかりですね、アリーチェ王女。そんなに知りたいのなら、教えて差し上げましょうか?本当はあの日、カヴァニスの都で何が起きていたのかを…………」

そう言ってセヴランは薄い灰色の瞳を意地悪く細めるのだった。
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