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103.現れた真の顔
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「姫…………、…………っ」
話しかけてきたスザンナの口を、アリーチェは反射的に塞いだ。
スザンナは驚いて目を見開いたが、深刻な顔をしてそっと自身の唇に人差し指を当て、それから扉の方を指差す主に、瞬時に状況を理解したようだった。
コクコクと何度か頷いて見せた。
その様子を確認して、アリーチェはそっと手を離すと、スザンナと目配せをしあい、漏れてくる声に意識を集中した。
「グズグズしていれば、また奴に先手を打たれかねませんぞ」
苛立ちの籠もったティルゲルの声は、確かに彼のものなのに、アリーチェの知るティルゲルとは別人のように感じられた。
「奴にはまだ、そこまでの力量はないでしょう。何せ、付け焼き刃の王に過ぎない、私の壮大な計画の土台となった兄王子の代用品ですからね。………それに万が一そうなったとしても………また、あちらを利用してやればいいだけです」
「不可侵協定を結んでいるカヴァニスに攻め込んだ、という事実だけで、『隻眼の騎士王』の信頼は失墜しましたからな。………まぁ、嵌められても何一つ手を打てない腰抜けが、どこまで陛下に喰らいついてくるかは見ものです」
愉しそうに嗤うティルゲルとセヴランの声が聞こえてきて、アリーチェの体から、血の気が引いていった。
一体、何の話をしているのか。
どうして、ルドヴィクのことを嘲っているのだろうか。
自分の耳に入ってくる情報が信じられず、アリーチェは思わず蹌踉めいてしまった。
慌てて彼女を支えるスザンナも、愕然とした表情を浮かべていた。
「………誰ですか、そこにいるのは?」
アリーチェが蹌踉めいた拍子に生じた微かな物音に、セヴランが気がついたようだった。
「ひ、姫様………っ」
室内で誰かが椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらへ近づいてくる気配がした。
それに気がついたスザンナが、小さく悲鳴を上げる。
アリーチェも、早くこの場を離れなければと思うのに、まるで金縛りにでも遭ったかのように、足が動かなかった。
「おや………どんな鼠が潜んでいるかと思えば、可愛らしい子兎でしたか」
ぎい、と不気味な音を立てて扉が開く。
そこには、灰色の瞳を冷たく光らせたセヴラン・ブロンザルドが、アリーチェとスザンナを見下ろしながら立っていた。
話しかけてきたスザンナの口を、アリーチェは反射的に塞いだ。
スザンナは驚いて目を見開いたが、深刻な顔をしてそっと自身の唇に人差し指を当て、それから扉の方を指差す主に、瞬時に状況を理解したようだった。
コクコクと何度か頷いて見せた。
その様子を確認して、アリーチェはそっと手を離すと、スザンナと目配せをしあい、漏れてくる声に意識を集中した。
「グズグズしていれば、また奴に先手を打たれかねませんぞ」
苛立ちの籠もったティルゲルの声は、確かに彼のものなのに、アリーチェの知るティルゲルとは別人のように感じられた。
「奴にはまだ、そこまでの力量はないでしょう。何せ、付け焼き刃の王に過ぎない、私の壮大な計画の土台となった兄王子の代用品ですからね。………それに万が一そうなったとしても………また、あちらを利用してやればいいだけです」
「不可侵協定を結んでいるカヴァニスに攻め込んだ、という事実だけで、『隻眼の騎士王』の信頼は失墜しましたからな。………まぁ、嵌められても何一つ手を打てない腰抜けが、どこまで陛下に喰らいついてくるかは見ものです」
愉しそうに嗤うティルゲルとセヴランの声が聞こえてきて、アリーチェの体から、血の気が引いていった。
一体、何の話をしているのか。
どうして、ルドヴィクのことを嘲っているのだろうか。
自分の耳に入ってくる情報が信じられず、アリーチェは思わず蹌踉めいてしまった。
慌てて彼女を支えるスザンナも、愕然とした表情を浮かべていた。
「………誰ですか、そこにいるのは?」
アリーチェが蹌踉めいた拍子に生じた微かな物音に、セヴランが気がついたようだった。
「ひ、姫様………っ」
室内で誰かが椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらへ近づいてくる気配がした。
それに気がついたスザンナが、小さく悲鳴を上げる。
アリーチェも、早くこの場を離れなければと思うのに、まるで金縛りにでも遭ったかのように、足が動かなかった。
「おや………どんな鼠が潜んでいるかと思えば、可愛らしい子兎でしたか」
ぎい、と不気味な音を立てて扉が開く。
そこには、灰色の瞳を冷たく光らせたセヴラン・ブロンザルドが、アリーチェとスザンナを見下ろしながら立っていた。
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