上 下
101 / 351

100.焦燥(ルドヴィク視点)

しおりを挟む
同じ頃、ルドヴィクは信頼のおける騎士たちを伴い、愛馬に跨り山道を疾走していた。
あれから必死にアリーチェの行方を追い、ようやく辿り着いたアドニスの街の屋敷は、もぬけの殻になっていた。
一足、遅かったのだと気が付いたルドヴィクは、のそのまま深い森の向こうにある山の方角へと向かった。
アドニスの街を発ったとなれば、行き着く先は一つしか考えられない。
自分の直感を信じて、ルドヴィクはひたすら悪道を進んだ。

「陛下!本当にこの道で合っているのですか⁈」
「それに、この勢いで馬を駆れば、潰れてしまいます!少し休ませてやらないと………」

ルドヴィクのすぐ後を追うクロードとジルベールがほぼ同時に声を上げるが、ルドヴィクの耳には全く届いていないようだった。
それどころか、大地を揺るがす馬の蹄や風を切る音が聞こえてるのか、たった一つしかない深いエメラルド色の瞳に、周囲の景色が映っているのかすらも疑問だった。
まるで何かに取り憑かれているかのように、髪を靡かせて馬を駆る様は、鬼神さながらだった。

早く、早く、早く。
ルドヴィクの頭の中は、一刻も早くアリーチェの許へ辿り着くという目的に支配されていた。
それと同時に、自分自身の行いを、愚かさを悔やみ、責め立てる感情が次々と湧き起こっていた。

彼女から目を離したせいで、彼女を守ることが出来なかった。
そして、そのせいで彼女に危険が及んでいるかもしれない。
強い後悔が、ルドヴィクを苛んでいた。
しかし、どんなに悔いても、時間が戻るわけではない。
確かなのは、アリーチェが自分自身の前から消えてしまったということ。

ルドヴィクが無意識のうちに唇を噛み締めると、反撞はんどうで血が流れる。
口の中に僅かに塩味を帯びた鉄の味が広がるが、ルドヴィクには痛みすらも感じられなかった。

アリーチェが心の中で流した血に比べれば、こんなものは出血のうちにも入らないだろうと思いながら、ルドヴィクは袖口でぐいっと血を拭うと、手綱を握る手に力を込め直し、馬の腹を更に強く蹴った。

「アリーチェ姫…………、どうか、無事で………!」

ルドヴィクの口から零れた小さな祈りは、陽の光も通さないような深い森を吹き抜ける風に、流されていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

【R18】私は婚約者のことが大嫌い

みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。 彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。 次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。 そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。 ※R18回は※マーク付けます。 ※二人の男と致している描写があります。 ※ほんのり血の描写があります。 ※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

処理中です...