隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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100.焦燥(ルドヴィク視点)

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同じ頃、ルドヴィクは信頼のおける騎士たちを伴い、愛馬に跨り山道を疾走していた。
あれから必死にアリーチェの行方を追い、ようやく辿り着いたアドニスの街の屋敷は、もぬけの殻になっていた。
一足、遅かったのだと気が付いたルドヴィクは、のそのまま深い森の向こうにある山の方角へと向かった。
アドニスの街を発ったとなれば、行き着く先は一つしか考えられない。
自分の直感を信じて、ルドヴィクはひたすら悪道を進んだ。

「陛下!本当にこの道で合っているのですか⁈」
「それに、この勢いで馬を駆れば、潰れてしまいます!少し休ませてやらないと………」

ルドヴィクのすぐ後を追うクロードとジルベールがほぼ同時に声を上げるが、ルドヴィクの耳には全く届いていないようだった。
それどころか、大地を揺るがす馬の蹄や風を切る音が聞こえてるのか、たった一つしかない深いエメラルド色の瞳に、周囲の景色が映っているのかすらも疑問だった。
まるで何かに取り憑かれているかのように、髪を靡かせて馬を駆る様は、鬼神さながらだった。

早く、早く、早く。
ルドヴィクの頭の中は、一刻も早くアリーチェの許へ辿り着くという目的に支配されていた。
それと同時に、自分自身の行いを、愚かさを悔やみ、責め立てる感情が次々と湧き起こっていた。

彼女から目を離したせいで、彼女を守ることが出来なかった。
そして、そのせいで彼女に危険が及んでいるかもしれない。
強い後悔が、ルドヴィクを苛んでいた。
しかし、どんなに悔いても、時間が戻るわけではない。
確かなのは、アリーチェが自分自身の前から消えてしまったということ。

ルドヴィクが無意識のうちに唇を噛み締めると、反撞はんどうで血が流れる。
口の中に僅かに塩味を帯びた鉄の味が広がるが、ルドヴィクには痛みすらも感じられなかった。

アリーチェが心の中で流した血に比べれば、こんなものは出血のうちにも入らないだろうと思いながら、ルドヴィクは袖口でぐいっと血を拭うと、手綱を握る手に力を込め直し、馬の腹を更に強く蹴った。

「アリーチェ姫…………、どうか、無事で………!」

ルドヴィクの口から零れた小さな祈りは、陽の光も通さないような深い森を吹き抜ける風に、流されていった。
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