隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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98.分けられた石

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結局その日、アリーチェはティルゲルの許を訪れる事が出来なかった。
セヴランに対して「自分で解決する」と宣言はしたものの、どうしたら良いのか、途方にくれていたからだ。

彼らの思いを裏切ったのはアリーチェ自身だ。
だからと言って、自分自身の気持ちを正直に打ち明ければ、それは更なる裏切りとなるだろう。

「姫様………」

窓のほうを眺めながら憂い顔をするアリーチェに、スザンナが心配そうに声を掛けた。

「………ごめんなさい。あなただって、不安よね?恋しいアマデオと離れ離れになっているのだし………」

敵と味方、という立場の違いはあれど、スザンナとて恋人と離れ離れになってしまっていることに変わりはないし、アマデオの消息が分からないという部分では、ルドヴィクよりも状況は悪いのかもしれない。

「大丈夫です。私には、彼が無事でいるということが分かりますから」

スザンナは僅かな微笑みを浮かべながら、彼女の胸を飾る大きな魔石のブローチをぎゅっと握りしめた。
その確信めいた言葉を、スザンナは昨日も口にしていたのを思い出す。

「アマデオのことを、心から信頼しているのね」

愛しい人のことを信頼できるスザンナのことが羨ましいと思いながらアリーチェが微笑むと、スザンナからは意外な言葉が返ってきた。

「………それもありますけど………彼の生死を把握できるのは、この魔石のお陰なのです」
「え………?」

言われている意味が分からず、アリーチェが首を傾げると、スザンナは魔石を握りしめたまま、アリーチェの側に歩み寄った。

「この魔石………原石は握り拳ほどの大きさのあるものだったのですが、それを二つに分けたものの片割れがこのブローチなのです。………そして、もう片方の石はアマデオの許にあります。一つの石を二つに分けたため、互いに共鳴しあって、お互いの無事を確認できるのですよ」
「魔石には………そんな力まであるのね。………でも、アマデオはどこに石を………?」

この大きさのものを男性が、しかも貴族ではない騎士が所持しているというのはかなり違和感があるだろう。
だが、アリーチェがアマデオと話をしたとき、そういったものを目にした記憶はなかった。
アリーチェが訊ねると、スザンナは少し困ったような表情を浮かべ、ゆっくりと口を開いた。

「………彼は、アマデオは………魔石を飲み込み、体内に隠しているのです」

予想もしていなかった言葉に、アリーチェはこれ以上ないくらいに目を見開いた。
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