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96.王族

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「………王族とは、全く面倒な立場ですよね。民の目を気にしながら、常に国の為に働き、己を律しなければならないのですから。………もはやそれは、自我があって、ないようなものです。………かくいう私もね、時々自分が分からなくなるのですよ」

まるで叙情詩でも吟じているかのような口調で、セヴランは淡々と語る。
それが彼の本心なのかは分からないが、アリーチェにはそれが酷く物悲しく、それでいてどこか諦めているように聞こえた。

「…………わたくしは………わたくしの国は既に滅びました。ですからもう、わたくしは王族ではありませんが………確かにカヴァニスの王女という立場を、煩わしく思うこともございました。ですが………」

セヴランの意見に、手放しで同意することは、アリーチェには出来なかった。
元来はどちらかというと快活な性格であるアリーチェは、己を殺してまで王女としての役割を全うしようとしたことはなかった。
周囲もそれをアリーチェにもとめていなかったのだろう。
ーーーだからこそ、今まさにその選択を迫られて煩慮しているのだ。

勿論、同じ王族とはいっても、国王と王女では責任も立場も全く異なる。
国王ともなれば、計り知れない重圧と責任が、その双肩に伸し掛かってくる。
それがいかに辛く、苦しいものなのかはセヴランにしか分からないことなのだろうとアリーチェはぼんやりと思った。


アリーチェの記憶が正しければ、セヴランは弱冠二十歳で即位したはずだった。
もしかすると、長く王位についていることで人知れず苦悩を抱えているのだろうか。
アリーチェはセヴランの様子を窺うが、その表情からは感情が読み取れなかった。

「………余計な話をして、更にあなたを混乱させてしまいましたね」

再び口籠ったアリーチェに、セヴランが気遣うように形ばかりの笑顔を向けた。
混乱というよりも、戸惑いのほうが強い。

「いくら国が滅びようとも、あなたが王族であったという事実、それは永久に変わることはありません。………あなたは、国が滅んでしまったことを理由に、己の責務から目を背けたいだけなのではないですか?」
「…………そ、れは…………」

アリーチェの虹色の瞳が、激しく揺れ動いた。
それは、まさにセヴランの言うとおりであり、反論の余地もない。
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