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92.心労
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「アリーチェ王女………。料理は、御口に合いませんでしたか?」
食事が終わり、アリーチェが席を立とうとしたとき、不意にセヴランが声を掛けてきた。
「いいえ、そんなことはございません。とても美味しかったですわ。………ただ、少し食欲がなくて………」
アリーチェは無理矢理笑顔を浮かべる。
料理は、カヴァニスの味が忠実に再現されているように思えた。
だが、アリーチェの心には料理を楽しむような余裕などなく、美味しいはずの料理も味はよく分からなかった。
同席していたティルゲルは、終始無言のまま陰鬱な視線をアリーチェに向けていた。
それは全てアリーチェ自身の行いが招いたことであり、己の意志を伝えた時点でこうなることは分かっていたが、それは想像以上に辛いものだった。
「………後で、温かい薬湯と、何かつまめるものを届けさせましょう」
「ありがとう………ございます」
心配そうな面持ちでアリーチェに気遣わしげな視線を向けるセヴランの優しさすらも、アリーチェの心には重荷でしかなかった。
奥歯を静かに噛み締め、己の心を押し殺すように息を吸い込むと、アリーチェはセヴランに向かって深くお辞儀をすると食堂を後にした。
アリーチェにあてがわれた部屋へと戻ると、スザンナが待っていた。
「湯浴みの支度は出来ております」
「ありがとう。少し、疲れてしまったみたいだから早めに湯浴みを済ませて、休むわ」
「分かりました。すぐに準備致しますね」
心労のせいなのか、アリーチェは酷く疲れていた。
先程の晩餐の席で、あまり食欲がなかったのはそのせいもあったが、立っているだけで貧血を起こしそうだった。
「姫様、随分と顔色が悪いようにお見受けしますが………」
「………大丈夫よ。本当に、疲れただけなの」
深く呼吸を繰り返し、アリーチェは湯浴みの支度を整えるために、ルドヴィクから貰った魔石の欠片の首飾りに手を掛けた。
「…………っ?」
それは、ほんの一瞬の出来事だった。
ルドヴィクの瞳を思い出させるような深いエメラルド色の魔石が、微かな光を帯びた。
そして、まるで静電気が起こったかのような小さな衝撃が走る。
気の所為かと思うような、本当に小さな異変は、スザンナも気がついていないようだった。
アリーチェはそれを不思議に思いながらも、特に気に留めることもなく、そっと机の上に置くと、スザンナに伴われて浴室へと向かったのだった。
食事が終わり、アリーチェが席を立とうとしたとき、不意にセヴランが声を掛けてきた。
「いいえ、そんなことはございません。とても美味しかったですわ。………ただ、少し食欲がなくて………」
アリーチェは無理矢理笑顔を浮かべる。
料理は、カヴァニスの味が忠実に再現されているように思えた。
だが、アリーチェの心には料理を楽しむような余裕などなく、美味しいはずの料理も味はよく分からなかった。
同席していたティルゲルは、終始無言のまま陰鬱な視線をアリーチェに向けていた。
それは全てアリーチェ自身の行いが招いたことであり、己の意志を伝えた時点でこうなることは分かっていたが、それは想像以上に辛いものだった。
「………後で、温かい薬湯と、何かつまめるものを届けさせましょう」
「ありがとう………ございます」
心配そうな面持ちでアリーチェに気遣わしげな視線を向けるセヴランの優しさすらも、アリーチェの心には重荷でしかなかった。
奥歯を静かに噛み締め、己の心を押し殺すように息を吸い込むと、アリーチェはセヴランに向かって深くお辞儀をすると食堂を後にした。
アリーチェにあてがわれた部屋へと戻ると、スザンナが待っていた。
「湯浴みの支度は出来ております」
「ありがとう。少し、疲れてしまったみたいだから早めに湯浴みを済ませて、休むわ」
「分かりました。すぐに準備致しますね」
心労のせいなのか、アリーチェは酷く疲れていた。
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「………大丈夫よ。本当に、疲れただけなの」
深く呼吸を繰り返し、アリーチェは湯浴みの支度を整えるために、ルドヴィクから貰った魔石の欠片の首飾りに手を掛けた。
「…………っ?」
それは、ほんの一瞬の出来事だった。
ルドヴィクの瞳を思い出させるような深いエメラルド色の魔石が、微かな光を帯びた。
そして、まるで静電気が起こったかのような小さな衝撃が走る。
気の所為かと思うような、本当に小さな異変は、スザンナも気がついていないようだった。
アリーチェはそれを不思議に思いながらも、特に気に留めることもなく、そっと机の上に置くと、スザンナに伴われて浴室へと向かったのだった。
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