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90.想い
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「姫様…………っ」
スザンナは小さく肩を震わせながら嗚咽を漏らした。
「………あなただって、辛かったはずよ。ティルゲルとわたくしの間に挟まれて………。それに………」
そこまで口にして、アリーチェは言葉を紡ぐのをやめた。
あの日以来、姿を見ることがなくなったアマデオのことを口にして、スザンナの心をこれ以上痛めさせる訳にはいかない。
彼が今、どこで何をしているのか。所在どころか生死でさえも分からない状態なのだ。
そんな中でも気丈に振る舞うスザンナを、アリーチェは見つめた。
「………私は、大丈夫です。………あの方は、生きていらっしゃいますから」
溢れる涙を拭うこともせず、スザンナは笑顔を浮かべた。
その表情は酷く無理をしているようなのに、スザンナの言葉には確信めいたものが浮かんでいるように思えた。
「スザンナ………」
愛する人を信じて待つことが出来る、彼女の強さが羨ましいと思う。
自分もスザンナのように、ルドヴィクを信じることが出来たならば、どれだけ良かっただろう。
(………でも、信じていたところで事実は変わらないのだけれど………)
アリーチェはスザンナの背中にそっと手を添え、摩りながらそんなことを考える。
セヴランが語ったことが真実なのかは分からないが、少なくとも何も語ろうとしなかったルドヴィクの言葉よりも余程信憑性はあった。
「…………あの、姫様」
どれくらいの間そうしていただろうか。
ようやく泣き止んだスザンナが、泣き腫らした目でアリーチェを見上げた、その時だった。
「失礼いたします、王女様」
扉の向こうから、聞きなれない声が聞こえた。
スザンナが何かに弾かれたかのように息を呑み、急いで扉へと向かった。
「お食事の準備が整いました。国王陛下が食堂でお待ちです」
おそらくこの城を切り盛りしている執事だろう。白髪交じりの初老の男性が、深くお辞儀をしてから立ち去っていくのがスザンナ越しに目に入った。
ブロンザルドに来てから接した人間は、セヴランを除いて、皆一様に冷たい印象を受けた。
決して不親切な訳でも、無愛想な訳でもないのにそう感じるのは、きっとアリーチェが自分が思っている以上にイザイアの王城での生活を快適に感じていたせいなのだろう。
イザイアでは、ジネーヴラをはじめ、ほかの侍女たちやクロード、ジルベールといった貴族もアリーチェを労わるように気遣ってくれていたのを思い出す。
叶うのならば、あの日々に戻りたい。
だがそれは自分の我儘でしかない。
アリーチェは自嘲の笑みを浮かべると、立ち上がった。
スザンナは小さく肩を震わせながら嗚咽を漏らした。
「………あなただって、辛かったはずよ。ティルゲルとわたくしの間に挟まれて………。それに………」
そこまで口にして、アリーチェは言葉を紡ぐのをやめた。
あの日以来、姿を見ることがなくなったアマデオのことを口にして、スザンナの心をこれ以上痛めさせる訳にはいかない。
彼が今、どこで何をしているのか。所在どころか生死でさえも分からない状態なのだ。
そんな中でも気丈に振る舞うスザンナを、アリーチェは見つめた。
「………私は、大丈夫です。………あの方は、生きていらっしゃいますから」
溢れる涙を拭うこともせず、スザンナは笑顔を浮かべた。
その表情は酷く無理をしているようなのに、スザンナの言葉には確信めいたものが浮かんでいるように思えた。
「スザンナ………」
愛する人を信じて待つことが出来る、彼女の強さが羨ましいと思う。
自分もスザンナのように、ルドヴィクを信じることが出来たならば、どれだけ良かっただろう。
(………でも、信じていたところで事実は変わらないのだけれど………)
アリーチェはスザンナの背中にそっと手を添え、摩りながらそんなことを考える。
セヴランが語ったことが真実なのかは分からないが、少なくとも何も語ろうとしなかったルドヴィクの言葉よりも余程信憑性はあった。
「…………あの、姫様」
どれくらいの間そうしていただろうか。
ようやく泣き止んだスザンナが、泣き腫らした目でアリーチェを見上げた、その時だった。
「失礼いたします、王女様」
扉の向こうから、聞きなれない声が聞こえた。
スザンナが何かに弾かれたかのように息を呑み、急いで扉へと向かった。
「お食事の準備が整いました。国王陛下が食堂でお待ちです」
おそらくこの城を切り盛りしている執事だろう。白髪交じりの初老の男性が、深くお辞儀をしてから立ち去っていくのがスザンナ越しに目に入った。
ブロンザルドに来てから接した人間は、セヴランを除いて、皆一様に冷たい印象を受けた。
決して不親切な訳でも、無愛想な訳でもないのにそう感じるのは、きっとアリーチェが自分が思っている以上にイザイアの王城での生活を快適に感じていたせいなのだろう。
イザイアでは、ジネーヴラをはじめ、ほかの侍女たちやクロード、ジルベールといった貴族もアリーチェを労わるように気遣ってくれていたのを思い出す。
叶うのならば、あの日々に戻りたい。
だがそれは自分の我儘でしかない。
アリーチェは自嘲の笑みを浮かべると、立ち上がった。
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