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76.焦燥(ルドヴィク視点)
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「一体、何があった?」
たった一つしかない深いエメラルド色の瞳が、鋭さを増す。
「………アリーチェ様が、姿を消しました」
女官長は肩で息をしながら、薄い青の瞳に絶望の色を宿していた。
「私の失態でございます。アリーチェ様につけていた侍女も共にいなくなりました。………先程の光は、アリーチェ様の部屋から発せられたものです。おそらくは、魔石が使われたのだと………」
消え入りそうな声は震えていた。
その報告に、ルドヴィクは明らかに怒りを滲ませた表情を浮かべる、ジネーヴラはただ茫然と目を見開き、女官長を見ていた。
「………その、侍女とは?」
「は、はい。アドニスの街の出身で、名はマチルドという者です。城に上がって五年ほどになりますが、真面目で忠実な娘でした」
女官長の報告に、ルドヴィクの顔が更に歪んだ。
またしてもアドニスの街の名が出てきた事で、点と点が、少しずつ線で結ばれていくような気がした。
「しかし、あの娘には不審なところなどありませんでした。一体何故そのような事になったのか………」
「………ブローチが………」
話を聞いていたジネーヴラが、ぽつりと呟いたのを、ルドヴィクは聞き逃さなかった。
「ブローチ?何の事だ?」
ルドヴィクの冷たい視線が、ジネーヴラへと向けられると、ジネーヴラは躊躇いがちに視線を彷徨わせた後、ゆっくりと口を開いた。
「マチルドさんは、三ヶ月程前にアドニスの街にある実家に数日帰ったのですが………戻ってきたときに、綺麗な石で出来たブローチをつけていたのです。お父上からのプレゼントだと………。ちょうどその辺りからでしょうか。マチルドさんの様子がおかしいというか………急によそよそしくなったのが気になっていたのですが………」
「な、何故そのようなことを黙っていたのです………!」
ジネーヴラに向かって、女官長が声を荒らげた。
「そのように感じていたのは、私だけだったようなので、考え過ぎだと思っていたのです!まさか、このようなことになるなんて………、私…………っ」
ジネーヴラは涙を浮かべながら震えだした。
「まだマチルドがアリーチェ姫を連れ去ったとは決まっていない。………確かなのは、彼女がいなくなったということだけだ」
ルドヴィクは両手の拳を強く握りしめると、女官長とジネーヴラを見据えた。
「アリーチェ姫に関わった者を、男女問わずすぐに私の執務室へと集めろ。………今すぐにだ」
「は、はい………!」
女官長とジネーヴラは半ば反射的に返事をすると、大急ぎで廊下を駆け出した。
その姿を見送りながら、ルドヴィクは苛立ちを隠せない様子で、握り締めた拳を壁へと打ち付けたのだった。
たった一つしかない深いエメラルド色の瞳が、鋭さを増す。
「………アリーチェ様が、姿を消しました」
女官長は肩で息をしながら、薄い青の瞳に絶望の色を宿していた。
「私の失態でございます。アリーチェ様につけていた侍女も共にいなくなりました。………先程の光は、アリーチェ様の部屋から発せられたものです。おそらくは、魔石が使われたのだと………」
消え入りそうな声は震えていた。
その報告に、ルドヴィクは明らかに怒りを滲ませた表情を浮かべる、ジネーヴラはただ茫然と目を見開き、女官長を見ていた。
「………その、侍女とは?」
「は、はい。アドニスの街の出身で、名はマチルドという者です。城に上がって五年ほどになりますが、真面目で忠実な娘でした」
女官長の報告に、ルドヴィクの顔が更に歪んだ。
またしてもアドニスの街の名が出てきた事で、点と点が、少しずつ線で結ばれていくような気がした。
「しかし、あの娘には不審なところなどありませんでした。一体何故そのような事になったのか………」
「………ブローチが………」
話を聞いていたジネーヴラが、ぽつりと呟いたのを、ルドヴィクは聞き逃さなかった。
「ブローチ?何の事だ?」
ルドヴィクの冷たい視線が、ジネーヴラへと向けられると、ジネーヴラは躊躇いがちに視線を彷徨わせた後、ゆっくりと口を開いた。
「マチルドさんは、三ヶ月程前にアドニスの街にある実家に数日帰ったのですが………戻ってきたときに、綺麗な石で出来たブローチをつけていたのです。お父上からのプレゼントだと………。ちょうどその辺りからでしょうか。マチルドさんの様子がおかしいというか………急によそよそしくなったのが気になっていたのですが………」
「な、何故そのようなことを黙っていたのです………!」
ジネーヴラに向かって、女官長が声を荒らげた。
「そのように感じていたのは、私だけだったようなので、考え過ぎだと思っていたのです!まさか、このようなことになるなんて………、私…………っ」
ジネーヴラは涙を浮かべながら震えだした。
「まだマチルドがアリーチェ姫を連れ去ったとは決まっていない。………確かなのは、彼女がいなくなったということだけだ」
ルドヴィクは両手の拳を強く握りしめると、女官長とジネーヴラを見据えた。
「アリーチェ姫に関わった者を、男女問わずすぐに私の執務室へと集めろ。………今すぐにだ」
「は、はい………!」
女官長とジネーヴラは半ば反射的に返事をすると、大急ぎで廊下を駆け出した。
その姿を見送りながら、ルドヴィクは苛立ちを隠せない様子で、握り締めた拳を壁へと打ち付けたのだった。
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