隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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71.回顧(1)

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アリーチェは複雑な気持ちで、ティルゲルとスザンナを見つめた。

目の前にいるのは、あの戦火を潜り抜け、生き延びた大切な人達に違いないのに、どうしてこんなにも胸の中がざわつくのだろう。
その理由は、アリーチェ自身の心境の変化のせいだということは解っていた。
それでも、その事実から目を背けたくて、アリーチェは無理矢理笑顔を浮かべた。

「またこうして会える日が来たことが、信じられません。姫様、さぞかしお辛かったでしょう」

ティルゲルが気遣わし気な視線をアリーチェに向けてきた。

「………あなたたちに比べれば、わたくしは随分と恵まれていたと思うわ」

イザイア城での出来事を思い出しながら、アリーチェは呟く。

「でも、姫様は罪人のように閉じ込められ、自由を奪われながら傷付けられていたではないですか。私。見ていて本当に辛うございました」

城に潜入していたスザンナが、憎しみを湛えた瞳で、窓の方を見た。

「………………」

アリーチェは益々混乱する気持ちを整理するように、ゆっくりと深呼吸をした。

「………あの日から今日まで、どのようなことがあったのか、そして今何が起きていて、カヴァニスはどうなっているのか、あなた達が知っている事をわたくしに、教えてくれますか?」

まずは、現状を把握しなければ、何もできない。
自分が外の世界と隔絶されていた数ヶ月の間、そして何よりもカヴァニスが滅ぼされたあの日、何があったのかを知ろうと、アリーチェはティルゲル達に向かって語りかけた。

「………勿論です」

ティルゲルは涙を拭うと、スザンナが用意してくれた椅子へと腰を下ろした。

「…………そもそも、ここはどこなのですか?見たところイザイアの王都ではなさそうですが………」
「ええ。ここはアドニスの街の中心から少し入った通りに面した建物です。我々カヴァニスの生き残りは、ここを拠点としています」

ーーーアドニスの街。
そのフレーズに、アリーチェはどきりと胸が跳ね上がる。

「アドニス…………」

アリーチェは反芻するかのように、その名前を口にした。

「イザイア国内でも、王都に次ぐ規模を持つ、大きな都市なのです。………我々のような者が潜伏するには、王都のような厳しい警備もなく、過ごしやすいですからな」
ティルゲルはそう言って口元をにやりと笑みを浮かべた。

「………あの日、私が生き延びられたのは、本当に運が良かったのか………もしくはイザイア王を討ち取るようにと天が私を生きさせたのでしょうな」

ティルゲルは灰色の双眸に、怒りを滲ませた。

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