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53.変装

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「本当に………わたくしではないみたいだわ………」

翌日、鏡の前に立ったアリーチェは驚きに目を瞠った。
魔石の効果で色彩がかわっただけだというのに、本当に別人のように見えるのは何だか不思議だった。

「お綺麗な顔立ちは変わりませんけれど、これならばアリーチェ様だとは誰も気が付きませんわ」

ジネーヴラが感嘆の吐息を漏らしながらアリーチェの亜麻色に変化した髪を結い上げていく。

「魔石なんて貴重なものを、わたくしが部屋の外を歩けるようにするためだけに用意するなんて、本当に陛下は何を考えているのかしらね………?しかも、女官の格好をさせるだなんて、少し大袈裟なのではないかしら………」

アリーチェが力なく笑うと、ジネーヴラは悲しそうな表情を一瞬だけ浮かべた気がした。

「私には何とも申し上げられませんが、陛下には陛下のお考えがあるのでしょう。………ただ、陛下はいつだってアリーチェ様を大切にされているということは間違いありませんよ」
「………ええ、分かっているわ」

そう。彼がまるで壊れ物を扱うかのように自分のことを大切にしてくれているのは分かっている。
だが、それが妙に心に引っかかる。
ただの贖罪にしては、手が込んでいるし、なにより彼の態度が妙に気になるのだ。
彼の言う「心穏やかに過ごす」という意味がアリーチェには分からない。
彼は自分に何を望んでいるのだろうか。

考えれば考えるほどに、分からなくなっていく。

「出来ましたよ、アリーチェ様」

あれこれ考えていると、ジネーヴラがすっと離れた気配がした。
真正面に据えられた鏡に目を向けると、イザイアの城で働く女官用の、鮮やかな藍色のドレスに身を包んだアリーチェがこちらを見つめていた。

「姫君、支度は調ったようですね」

ジネーヴラをはじめとした侍女たちについて部屋を出ると、クロードが待っていた。

「………凄いな。陛下には聞いていましたが、本当に別人ですね。これならば問題なさそうだ」

冷静なクロードも驚きに目を瞠る。

「あの、セリエール侯爵様………」

アリーチェは不安そうにクロードを見上げた。

「………詳しくは何も聞いておりませんので、陛下に直接お尋ねください」

クロードはこほん、と小さく咳払いをすると、フロックコートの裾を翻す。

「………結局、陛下にお尋ねしても何も答えて下さらないのに………」

誰にも聞こえない程の小さな声でそう呟くと、アリーチェは歩き出したクロードの後ろに、俯きながら従うのだった。
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