隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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52.ルドヴィクの心

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その途端、驚く事にアリーチェの特徴的なアッシュブロンドの髪が、毛先の方から亜麻色へと変わり、世にも珍しいアースアイは栗色一色へと染まっていった。

「………上手く、いったようだ」

その様子を見たルドヴィクが、安堵の溜息を漏らす。

「あの、陛下?これは一体………?」

自分の体の変化に、アリーチェが驚きの声を上げる。
それは当然の事だった。
魔石自体が非常に希少なもので、その存在は知識として知ってはいても、一国の姫であったアリーチェですらも実物を目にするのは初めてであり、当然ながら魔石を身につけることでどのような変化があるかなどは一切知らなかったからだ。

「これなら、一見してあなただと分かる者はおそらくいないだろう」

ルドヴィクの意図が分からずに、アリーチェは何度も何度も瞬きを繰り返した。

「………この姿であれば、あなたは城の中を自由に動き回ることが出来るだろう?」

小さく溜息をつくと、どこかてれくさそうな表情を浮かべながら、ルドヴィクは呟いた。
それは、まるでアリーチェに自由を与えるためにわざわざ魔石を取り寄せたと言っているように聞こえて、アリーチェは胸がざわつくのを感じた。

「しかし、わたくしにはそこまでしていただく理由がありません」

そんな自分の気持ちを否定するかのように、アリーチェは拒絶の言葉を口にする。

「理由がなければいけないのか?」

珍しく、ルドヴィクがアリーチェの言葉を受け流すことをせずに切り替えしてきた。

「あなたが心穏やかに過ごせるように祈っていると、何度言えば分かるのか………。こうしてあなたを部屋に閉じ込めて苦しめたいわけではないのだと、これで分かってくれるだろうか?」

向けられた真摯な瞳に、アリーチェは吸い寄せられる。
この人は、どうしてこうも自分の心を揺さぶってくるのだろう。
残酷で、優しく、無愛想で、温かい。
そんな彼を、知れば知るほどに追い詰められていくようだった。

「…………何度言われても、理解出来ません。これは、贖罪………なのですか?わたくしと、その手で刈り取ったわたくしの祖国の人々の命に対する…………」

何故か、声が震える。
ルドヴィクに答えて欲しいのに、彼の口から答えを聞きたくない。
その相反した心は、またアリーチェを苦しめる。

「………そうだ。私が奪った全てに対する贖罪だ」

ルドヴィクはいつものように逃げることもはぐらかすこともせずにアリーチェの質問に答えると、ゆっくりとアリーチェから離れた。

「………だから、あなたが後ろめたさを感じる必要はない。それは私が背負うべきものだ」

そう呟いたルドヴィクの表情は、アリーチェの目には苦しみを抱えているように映ったのだった。
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