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51.魔石

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「アリーチェ姫。………少し、いいだろうか?」

その日の夜遅く、ルドヴィクがアリーチェの許を再び訪ねてきた。

「………もしかして、休んでいたところを起こしてしまったのならすまない………」

夜着姿のアリーチェを目にしたルドヴィクは、慌てたように謝罪の言葉を口にした。

ジネーヴラの気遣いで、昼間のうちに纏まって睡眠の取れたアリーチェだったが、そのせいで却って目が冴えてしまい、アリーチェは今宵も眠れずにいた。

「いえ。まだ休んではおりませんでしたので、大丈夫ですわ」

アリーチェは穏やかに微笑んで見せると、ルドヴィクを自室へと招き入れた。

「………今宵はこれを、渡しに来ただけだ。すぐに戻る故、そう警戒しないで欲しい」

怪訝そうな表情でも浮かべていたのだろうか。
アリーチェははっとして、己の頬に触れた。

そんなアリーチェに対して、ルドヴィクは懐から徐ろに、小さな箱を取り出した。
そして、アリーチェの手を取ったかと思うと、アリーチェの手にその箱を握らせた。

「あの……………?」
「………開けてみてくれ」

アリーチェは、素直にルドヴィクの言葉に従った。
すると中から出てきたのは、小さなエメラルドのついた華奢な首飾りだった。
アリーチェは、驚いてルドヴィクを見上げた。

「陛下、わたくしには…………」

以前、失ったと思っていた母の形見となる耳飾りを贈られ、受け取ったことがあったが、もしかすると宝飾品ならば受け取ってくれると勘違いしたのだろうか。

「………これは、ただの宝飾品ではない。その中央にあるのは、魔石だ」
「魔石…………?」

魔石。
それは、遥か古の時代に失われてしまった『魔法』の残滓のようなもので、魔力の宿る不思議な鉱物の総称。
今では、ブロンザルド王国でしか採掘がされない貴重な品だった。

「そんな貴重なものであれば尚更受け取るわけにはいきません」

驚いたように声を上げたアリーチェを、ルドヴィクの隻眼が見つめた。
魔石と同じ、ルドヴィクの深いエメラルド色がじっとアリーチェを見つめる。

「あなたの為だけに、これを探させた」

ルドヴィクは箱の中から魔石付きの首飾りを取り出すと、徐ろにそれをアリーチェへと装着させた。

「…………これで、いいはずだ」

ルドヴィクは器用な手付きで首飾りの留め具を首筋の後ろで留めた。
すると、一瞬魔石から淡い光が生じて、アリーチェの全身を包み込んだのだった。
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