48 / 351
47.騎士アマデオ
しおりを挟む
「その通りです。他にも数人、仲間が騎士団に潜り込んでいますが、イザイア王がそれに勘づいたらしく………我々もここに長く留まる訳にはいかなそうです」
悩ましげに眉間に皺を寄せたアマデオは、しきりに扉の外の様子を気にしながら話を続けた。
「………姫様、ジネーヴラ殿が戻るまであまり時間がありません。明日の夜は私が姫様の部屋の警護な当たります。………逃げ出すご準備を、お願い致します」
声を潜めたアマデオが、真剣な眼差しを向ける。
「………逃げ出す?この城を?」
アリーチェが思わず声を上げると、アマデオは焦ったようにアリーチェの口を押さえてきた。
「お静かに」
アマデオは悲しそうな表情を浮かべた。
「イザイア王に捕らえられ、このように監禁されて、お辛かったでしょう。もっと早く………このような場所に連れ去られる前にお救い出来ず申し訳ございませんでした」
アリーチェは彼の言葉に、返事も相槌を打つことすらも出来ずに口籠った。
確かに、初めのうちは辛く、苦しかった。
それこそ、自らの命を絶ち切ってしまいたいと思うくらい。
けれどもルドヴィクへの復讐という目標が出来、その心がいつの間にかルドヴィクへの好意へと変貌したと言って聞かせたら、アマデオは………自分の命を犠牲にしてでもアリーチェを逃がそうとしてくれた宰相ティルゲルは、どのように思うのだろうーーー。
せっかくこうして出会えた同胞に嘘は付きたくない。
だが、真実を告げるわけにもいかない。
アリーチェはぎゅつと唇を噛みしめると、困ったように微笑みを浮かべるだけだった。
「お待たせいたしました、アリーチェ様」
ちょうどその時だった。
部屋の中にいつの間にか充満していた緊張感を払い除けるかのようにジネーヴラが入室してきた。
「お疲れ様です、ジネーヴラ殿」
アマデオはジネーヴラに姿を見られても全く動じる素振りすらも見せなかった。
「アマデオ様……?」
部屋の警護をしている騎士達のことまで、ジネーヴラは把握しているようだった。
「大切なアリーチェ姫をこの部屋に独りとどめておくのは感心しません。何かあれば、取り返しの付かない事態に巻き込まれる可能性があります。………少し、無用心だと思いませんか?」
自分自身のことは棚に上げ、呆れたように溜息をついた。
「………ごめんなさい………」
いつも冷静なジネーヴラが、心底申し訳無さそうに謝罪の言葉に口にした。
「本当に、気をつけてください」
やや厳しく顔を顰めて、アマデオは囁くと、アリーチェの方へとにこりと笑いかけてくれたのだった。
悩ましげに眉間に皺を寄せたアマデオは、しきりに扉の外の様子を気にしながら話を続けた。
「………姫様、ジネーヴラ殿が戻るまであまり時間がありません。明日の夜は私が姫様の部屋の警護な当たります。………逃げ出すご準備を、お願い致します」
声を潜めたアマデオが、真剣な眼差しを向ける。
「………逃げ出す?この城を?」
アリーチェが思わず声を上げると、アマデオは焦ったようにアリーチェの口を押さえてきた。
「お静かに」
アマデオは悲しそうな表情を浮かべた。
「イザイア王に捕らえられ、このように監禁されて、お辛かったでしょう。もっと早く………このような場所に連れ去られる前にお救い出来ず申し訳ございませんでした」
アリーチェは彼の言葉に、返事も相槌を打つことすらも出来ずに口籠った。
確かに、初めのうちは辛く、苦しかった。
それこそ、自らの命を絶ち切ってしまいたいと思うくらい。
けれどもルドヴィクへの復讐という目標が出来、その心がいつの間にかルドヴィクへの好意へと変貌したと言って聞かせたら、アマデオは………自分の命を犠牲にしてでもアリーチェを逃がそうとしてくれた宰相ティルゲルは、どのように思うのだろうーーー。
せっかくこうして出会えた同胞に嘘は付きたくない。
だが、真実を告げるわけにもいかない。
アリーチェはぎゅつと唇を噛みしめると、困ったように微笑みを浮かべるだけだった。
「お待たせいたしました、アリーチェ様」
ちょうどその時だった。
部屋の中にいつの間にか充満していた緊張感を払い除けるかのようにジネーヴラが入室してきた。
「お疲れ様です、ジネーヴラ殿」
アマデオはジネーヴラに姿を見られても全く動じる素振りすらも見せなかった。
「アマデオ様……?」
部屋の警護をしている騎士達のことまで、ジネーヴラは把握しているようだった。
「大切なアリーチェ姫をこの部屋に独りとどめておくのは感心しません。何かあれば、取り返しの付かない事態に巻き込まれる可能性があります。………少し、無用心だと思いませんか?」
自分自身のことは棚に上げ、呆れたように溜息をついた。
「………ごめんなさい………」
いつも冷静なジネーヴラが、心底申し訳無さそうに謝罪の言葉に口にした。
「本当に、気をつけてください」
やや厳しく顔を顰めて、アマデオは囁くと、アリーチェの方へとにこりと笑いかけてくれたのだった。
2
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる