隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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43.すれ違う気持ち

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「あなた自身の安全のほかに、心配するものがあるとでも?」

ルドヴィクは抑揚のない声を紡ぎだす。

「お言葉ですけれど、わたくしが狙われる理由がわかりませんわ」

アリーチェは素直に思ったことを口にした。
侵入者に命を狙われるような理由が、アリーチェにはない。
思い当たるようなことと言えば、元王族という何の役にも立たない肩書と、アドニスの街で流れているという噂くらいだが、いくら噂が流されていると言っても、そこで暮らす人々にとって、アリーチェのことなど全く関係はないだろう。
わざわざ危険を冒してまで、アリーチェを襲う理由など、どこにも見当たらない。

「………その理由は、あなたが知る必要はない」

静かにそう告げたルドヴィクに、アリーチェは小さく溜息をついた。
まただ、と思った。
先程、突き放されたように感じられたのも、同じ理由だ。
ルドヴィクは、アリーチェに知られたくない何かを隠そうとしているのだろう。
話が核心に触れそうになるといつもこうしてアリーチェに知られることを拒絶する。
それが彼の優しさなのか、残酷さなのかもわからない。

「とにかく、私はあなたが傷つく姿を見たくない」

そう言ってアリーチェを見つめる不快エメラルド色の瞳はどこまでも優しくて、アリーチェは胸の奥がぎゅっと苦しくなるのを感じた。
まるで、鋭い茨の棘がじわりじわりと皮膚に食い込んでいくような、藻掻けば藻掻くほどに痛みを生じるようなその感情に囚われてしまっていることをはっきりと意識させられる。
それがどうしようもなく辛くて、アリーチェは感情をそのままぶつけるように、ルドヴィクを詰った。

「………陛下は、勝手です。あの日、国とともに死ぬ運命だったわたくしを救い、牢獄のような部屋に閉じ込め、そして陛下を憎めとお命じになるのに、こうしてわたくしを気にかけて、優しくする。………本当に、勝手です」

俯くと涙が零れ落ちてしまいそうで、アリーチェは真っすぐにルドヴィクを見つめた。

「………勝手、か………。そうだな」

ルドヴィクは小さく呟くと、たった一つだけの目に悲しそうな光を宿してアリーチェを見つめた。

「私の勝手で、あなたを振り回してしまったことは、申し訳ないと思っている。それでも………」

そこまで言ってから、ルドヴィクははっとしたように慌てて口を噤んだ。

「………とにかく、何かあれば指示を出す。それまでは、今までと同様にこの部屋から出ないでほしい。………それから、なるべく人目につく窓辺には近づかないでくれ」

低い艶やかな声でそれだけ伝えると、ルドヴィクはまるで逃げ出すかのようにアリーチェの部屋を後にするのだった。
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