隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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40.不穏な影

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それから暫く話をしてからルドウィクは帰っていったが、アリーチェの心は全く落ち着かなかった。
ルドヴィクに対する自分の気持ちに、はっきりと気がついてしまったからだ。

「わたくしは………どうすれば良いのでしょうか………?」

寝台の縁に腰掛けたまま、アリーチェは途方に暮れたように独り呟く。
そして、復讐の刃を向けるべき相手を、愛してしまった己の罪深さに、アリーチェは小さく震えた。

彼とて、アリーチェからの好意など迷惑でしかないだろうと思うと、気持ちは沈む。
アリーチェにとっては、これが所謂『初恋』だった。
初恋は実らないという話をよく聞くが、それは本当なのかもしれない。
決して叶わぬ恋だと分かっているからこそ、この気持ちに目を背け続けて来たのかもしれないと、アリーチェは思う。

恋とは、何と苦しく、切なく、悲しいのだろう。
ルドヴィクを想うだけでこの胸は甘く疼きを訴えるのに、同時に何とも言えない哀愁が込み上げてくるようだった。

アリーチェは胸のあたりにそっと拳を当てると立ち上がった。

大きくはない窓から差し込む月明かりは先程と変わらないのに、妙な眩しく感じるのは、ルドヴィクがいないせいだろうか。
アリーチェは誘われるように窓辺へと歩み寄った。

昼間、ルドヴィクはここから自分が見つめていたことに気がついてくれたのだろうか。
月明かりに照らされた城門の方をじっと見つめると、何かが動いた気がした。

「………猫?」

常闇に紛れるようなその気配に、アリーチェはじっと目を凝らす。
まるで、見張りの騎士たちの監視を掻い潜るようにして動く影は、猫などではなかった。

「まさか………侵入者………?」

アリーチェは驚きに目を瞠った。
イザイアの王城は、鉄壁の守りを誇る事で知られている。
実際この城に連れてこられて、僅かな部分を見ただけだが、造りが非常に複雑で入り組んでいる。
ルドヴィクやクロード、そして女官たちと一緒でなければ自室へと戻ることすらも出来ないと感じたほどだ。
加えて『隻眼の騎士王』ルドヴィクが統率するイザイア騎士団は大陸最強とも謳われるほどの存在だ。
そんな騎士達が城を守っているのだから、もしあの影が侵入者なのだとしたら相当な腕の持ち主に違いなかった。

風もないのに窓が揺れた気がした。
アリーチェは何だか嫌な予感がして慌ててカーテンを引くと窓から離れて寝台へと飛び込んだ。
己の心臓の音が妙に大きく感じられてぎゅっと目を瞑ると、アリーチェは気持ちを鎮めようと何度も何度も、深呼吸を繰り返すのだった。
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