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39.恋心
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「………わたくしの消息など………」
「誰も気にしないとでも、思っているのか?あなたは、一国の王女だ。国が滅びてしまっても、その血筋や王族だったという過去が消えるわけではない。………それに、あなたは大陸一の美姫として名を馳せている。そんな姫を欲する輩は少なくない」
「………!」
突然、ルドヴィクの口から、自分の容姿に関する褒め言葉が飛び出したことに、アリーチェは激しく動揺した。
だが、ふと今までルドヴィクから、そんな賞賛の言葉を掛けられた経験が、ただの一度もなかったということに気がつく。
そして、視察に出掛ける前と後で、明らかにルドヴィクの態度が、変化していたことに、アリーチェは疑問を覚えた。
成果は無かったと言ってはいるが、やはりアドニスの街で、何かあったのかは分からなかった。
「………何故、アドニスからその噂が広がったのかを調べるため、それからここ数日で多発する行方不明者の情報を仕入れるためにアドニスまで足を運んだんだ」
ルドヴィクが嘘をついているようには思えない。
「………そう、だったのですね」
自分の為に、ルドヴィクが動いてくれたと感じてしまうのは、思い上がりなのだろうかと考えてから、アリーチェははっと気がついた。
『監禁している』のは、今アリーチェの眼の前にいるルドヴィクに違いないのに、どうしてルドヴィクにこんな感情を抱くのだとアリーチェは自分自身を叱咤した。
(駄目よ………)
彼の眼帯の秘密について話を聞いたせいで、ルドヴィクに対して、強い同情を感じたのは確かだった。
だが、アリーチェの心が掻き乱されるのは、同情のせいではない。
その感情を認めてはいけない。
気がついてはいけないと必死に目を背け、向き合うことをしなかった『感情』は最早、取り返しがつかないくらいに大きくなってきてしまっていた。
ルドヴィクは、家族の仇であり、罪のないカヴァニスの国民を虐殺し、国を滅ぼした大罪人。
憎むべき敵なのに、彼を好きだと感じてしまうこの気持ちを、どうすればいいのだろうーーー。
アリーチェはつらつらと説明を続けるルドヴィクを見つめながら、喉のあたりまで込み上げてきた苦しくて切ない、淡い恋心を無理矢理呑み込む。
そんなアリーチェを、痩せ細った月だけが、かに見守ってくれているのだった。
「誰も気にしないとでも、思っているのか?あなたは、一国の王女だ。国が滅びてしまっても、その血筋や王族だったという過去が消えるわけではない。………それに、あなたは大陸一の美姫として名を馳せている。そんな姫を欲する輩は少なくない」
「………!」
突然、ルドヴィクの口から、自分の容姿に関する褒め言葉が飛び出したことに、アリーチェは激しく動揺した。
だが、ふと今までルドヴィクから、そんな賞賛の言葉を掛けられた経験が、ただの一度もなかったということに気がつく。
そして、視察に出掛ける前と後で、明らかにルドヴィクの態度が、変化していたことに、アリーチェは疑問を覚えた。
成果は無かったと言ってはいるが、やはりアドニスの街で、何かあったのかは分からなかった。
「………何故、アドニスからその噂が広がったのかを調べるため、それからここ数日で多発する行方不明者の情報を仕入れるためにアドニスまで足を運んだんだ」
ルドヴィクが嘘をついているようには思えない。
「………そう、だったのですね」
自分の為に、ルドヴィクが動いてくれたと感じてしまうのは、思い上がりなのだろうかと考えてから、アリーチェははっと気がついた。
『監禁している』のは、今アリーチェの眼の前にいるルドヴィクに違いないのに、どうしてルドヴィクにこんな感情を抱くのだとアリーチェは自分自身を叱咤した。
(駄目よ………)
彼の眼帯の秘密について話を聞いたせいで、ルドヴィクに対して、強い同情を感じたのは確かだった。
だが、アリーチェの心が掻き乱されるのは、同情のせいではない。
その感情を認めてはいけない。
気がついてはいけないと必死に目を背け、向き合うことをしなかった『感情』は最早、取り返しがつかないくらいに大きくなってきてしまっていた。
ルドヴィクは、家族の仇であり、罪のないカヴァニスの国民を虐殺し、国を滅ぼした大罪人。
憎むべき敵なのに、彼を好きだと感じてしまうこの気持ちを、どうすればいいのだろうーーー。
アリーチェはつらつらと説明を続けるルドヴィクを見つめながら、喉のあたりまで込み上げてきた苦しくて切ない、淡い恋心を無理矢理呑み込む。
そんなアリーチェを、痩せ細った月だけが、かに見守ってくれているのだった。
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