隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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36.帰還

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それから数日、アリーチェは塞ぎがちだった。

用意された食事は何を口にしても味がなく、ジネーヴラたちとの会話にも身が入らない。
目に映る景色全てが全てが色を失ったように、虚しさを感じていた。
そんなアリーチェに対してジネーヴラたちは必要以上に干渉せず、そっと見守ってくれた。
本当に、自分には勿体ないほどに気遣いの出来る侍女たちだ。
アリーチェは彼女たちの配慮に甘えながら、訳の分からない感情に振り回される自分を宥めるようにぼんやりと過ごしていた。


ルドヴィクが視察から戻ったのは、五日後の事だった。
俄に城内が騒がしくなり、扉の外を人が行き交う気配を感じた。

「陛下が、無事に帰還されたようですね」
「………そうね」

ジネーヴラは邪気のない笑顔をアリーチェに向けたが、アリーチェはざわつく気持ちを抑えられずに、不安気に虹色の瞳を彷徨わせる。

ルドヴィクが城に戻ったということは、また彼と顔を合わせられる。
たったそれだけのことなのに、胸が弾むような気分になる。
だが、それがなぜなのかを確認しようとは思わなかった。………いや、敢えてその理由を考えないようにしていた。

「でも………陛下は一週間ほど留守にすると仰っていたのに、随分と早いお戻りだったのね………」

ふとルドヴィクの話を思い出したアリーチェは、怪訝そうに眉を顰めた。

「………アドニスの街では行方不明者が短期間に複数出ていると、新聞ジュルナルに記事が載っていたのだけれど、陛下が視察に行かれたことと関係があるのかしら………?」
「行方不明者、ですか………?それについては、私からは何とも………。でも、気になりますね。アドニスは比較的治安のいい街だと思うのですが………」

ジネーヴラが不思議そうな顔をする。
彼女の様子からだと、行方不明者の事件すらも知らなかったようだ。

「そう………」

ほうっと小さく息を吐き出すと、アリーチェは窓からルドヴィクの様子を窺う。
遠目からでも、漆黒の長い髪と体格のせいか、彼はよく目立った。
彼は今、何を思い、何を感じているのだろう。
窓に寄りかかりながらそんな思いで彼を見つめていると、ふとルドヴィクがこちらに顔を向けた。

「…………っ!」

彼のエメラルド色の隻眼が自分を捉えた事に気が付き、アリーチェは思わず息を呑む。
別にやましいことをしているわけではないのに、心臓が一気に跳ね上がり、アリーチェは咄嗟にカーテンの影に身を隠した。

「アリーチェ様…………?」
「あ………、な、何でも………ないわ………」

ジネーヴラが側に控えていた事すらも忘れるほどに動揺していた事に気がついてアリーチェは恥ずかしくなり、それを誤魔化すように曖昧な笑みを浮かべたのだった。
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