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35.涙

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ルドヴィクがアリーチェの事を大切にしているということは、クロードも口にしていたのを思い出す。

カヴァニスにいた頃の、穏やかで優しい日々の記憶は、沢山の幸せに満ちたもので、家族や城で働く人々に守られて、愛され大切にされていたということは自覚している。

だがルドヴィクのそれは、何か違うような気がした。

多忙な中でわざわざアリーチェと過ごすための時間を作り、何かと気遣いをしてくれているということは十分に分かっている。
だがアリーチェに接するルドヴィクの態度は、この上なく優しいのに、まるで腫れ物に触るようなものだった。

「わたくしは………陛下にとって、どんな存在なのかしら………?」
「アリーチェ様…………」

ジネーヴラや他の侍女達が驚いた表情を浮べる。
それと同時に、頬がすうっと冷たくなった気がした。
………いつの間にか、アリーチェの目からは涙が零れ落ちていたのだった。

「ご………ごめんなさい………、わたくしったら………!」

自分自身でも驚きながら、アリーチェは慌てて涙を指で拭うが、止め処なく零れる涙は次々に頬を濡らしていく。

「………こんな………こんな、つもりではないのに…………っ」

絞り出した声が、嗚咽で途切れた。

どうして涙が止まらないのだろう。
そして、ルドヴィクを想うと、何故こんなにも寂しさと不安に襲われるのだろう。

ジネーヴラ達はアリーチェの涙を布で拭うと、椅子の方へと連れて行ってくれた。

「アリーチェ様…………」

こんなにも情緒不安定なのは何故なのだろう。
胸がぎゅっと締めつけられるような、けれどもどこか甘くて心地いいような、今まで味わったことのない感情がアリーチェを翻弄した。

「………本当に、こんなつもりは………無かったの………」

アリーチェは促されるままにソファに腰を下ろすと、両手を強く握りしめた。

胸の中で燻るその気持ちが、アリーチェの心を掻き乱し、アリーチェを苦しめている。
それは理解しているのに、胸の中にしまい込まれた感情が何なのか、とっくに気がついているのに、ぜったいにその事実を認めるわけにはいかなかった。

ルドヴィクは、両親と兄の仇であり、カヴァニスの何の罪もない人々を虐殺したと言う事実は、彼の中でも一生消えない傷として残ることだろう。

それなのに、ルドヴィクの心境を思い遣るだけで、苦しい気持ちになるのだ。
アリーチェは少し目を伏せてから、盛大に溜息をついた。
………絶対にこの気持ちを明かすことは、彼を許すということになってしまうような気がしたからだ。

皺になるくらいに、ドレスの裾を掴むと、アリーチェは己の気持ちに違和感を覚えながらも、何とかアリーチェは自分の心を落ち着かせるのだった。
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