隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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28.胸の疼き

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「………真実とは、必ずしも目に見えることだけではないということだ」

低い、けれども静かな声が、冷たい部屋に響き渡る。

「え………?」

ルドヴィクの言葉の意味が理解出来ないアリーチェは、怪訝そうに眉を顰めた。

真実それをあなたが知る必要はない。あなたはただ、心穏やかに生きていてくれればいいんだ」

感情を押し殺したような抑揚のない声であるはずなのに、ルドヴィクの声は酷く優しく耳に響いた。

捉え方によっては、まるで恋人にでも囁く言葉のようにも聞こえて、アリーチェは胸が締め付けられるような気持ちになる。

その胸の疼きに、アリーチェははっとした。
そして何ということを考えているのだろうと、己を叱咤した。
思い上がりも甚だしい上に、相手は祖国を滅ぼした男だというのに、一体何故そんなことを考えたのだろう。
だが、もしルドヴィクともっと違う出会い方をしていれば。
もし彼があのような真似をせず、今もカヴァニスが平和に存続していれば。
無意識のうちに有り得ない可能性を思い描きたくなるのは、何故なのだろう。

アリーチェは、頼りなく揺らいだ虹色の瞳を僅かに伏せた。
耳障りなほどの沈黙が、空間を支配した。

窓の外はいつの間にか強い風が吹いていて、木々の梢が荒れ狂っているのが見える。

「そうやって結局、陛下はわたくしに何もお話し下さらないのですね。わたくしは、もっと陛下の事を知りたいと思っておりますのに………」

静寂に耐えられなくなったアリーチェは、恐る恐る口を開いた。
それは、嘘偽りのないアリーチェの気持ちだった。

いつも核心に触れそうになると、ルドヴィクはアリーチェに背を向けて、逃げてしまう。
まるで真実をアリーチェに知られる事を恐れているかのように。
だからこそ、彼がこれ以上逃げられないように、アリーチェは己の本心を曝け出す覚悟を決めたのだった。

「……………」

そんなアリーチェの言葉にも、ルドヴィクは何も言い返すことなく、ただアリーチェを見つめているだけだった。
しかし、暫くしてルドヴィクが、僅かに顔を顰めると黒い眼帯に手をやった。

「………その左目は、戦で失われたのですか?」

ルドヴィクの辛そうな表情に、アリーチェはまた問いかける。
すると、ルドヴィクは顔を顰めたまま、アリーチェの方にちらりと視線を移した。

「………私の事を知りたい、というあなたの希望に応えて、一つだけ昔話をしよう」

左目を押さえたまま、ルドヴィクは小さく息をつくと、アリーチェに向き直った。
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