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27.疑問
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この部屋に入るのは二度目だったが、相変わらず部屋全体が冷たい空気に満たされていた。
その様子はまるでルドヴィク自身を現しているようにアリーチェには思えた。
「お忙しいところお時間をいただき申し訳ございません」
「謝罪の必要はない」
カーテシーをするアリーチェに向かってぴしゃりと言い放つと、ルドヴィクは椅子に座るようにアリーチェに指示をした。
「………話があると聞いたが?」
侍女がお茶を差し出したタイミングで、先に口を開いたのはルドヴィクだった。
「はい。………わたくしは、意識のないままにこの国に来て、今まで陛下のご厚意により、平穏な日々を過ごして参りましたが………陛下はわたくしのことを客人だと仰いましたが、亡国の………敗戦国の王女であるわたくしを、何故捕虜ではなく客人として扱われるのかが不思議でならないのです」
彼にとって自分は何者なのか。
それはアリーチェがずっと疑問に思ってきた事だった。
生かしておいても害にしかならないはずの自分を助け、治療を施し、幽閉しながらも気にかけてくれる。
かと思えば、自分を憎むように懇願してくる。
一体彼の本心はどこにあるのだろうということが、アリーチェを悩ませていた。
「………私が『客人』として扱うと決めた。それだけだ」
「わたくしを客人として扱うことで、陛下にはどのような利点があるのですか?」
アリーチェが虹色の瞳を真っ直ぐにルドヴィクに向けると、ルドヴィクは一瞬怯んだように見えた。
そして形の良い唇を真一文字に引き結ぶ。
「…………」
またしても沈黙が、覆いかぶさってきた。
ルドヴィクは口数が少ないとクロードが言っていたが、確かにそのとおりだと思う。
それどころか、彼は滅多に感情を表に出さない。
彼が彼自身を曝け出したのは、アリーチェに自分を憎んで欲しいと懇願してきた、あの時だけのように思えた。
国を統べる立場にある者としては当然のことなのかもしれないが、ルドヴィクは必要以上に己を律し、感情を押し殺しているようにすら感じられる。
そんなルドヴィクの、深いエメラルド色の瞳が不安気に揺れるのを見て、アリーチェは目を瞬いた。
「………利点がなければ、おかしいのだろうか?」
長い沈黙が漸く破られ、ルドヴィクは低い声で呻くように呟いた。
「陛下はお立場上、イザイアの国益を第一に考えて行動なさるはずだと思いますが、違うのですか?」
国王とは、国のためにあるものだと父がよく口にしていたのを思い出しながらアリーチェは言葉を選ぶ。
カヴァニスにいた頃からの評判でも、実際にイザイアに来てからも、ルドヴィクが良い施政者であるということが伺えた。
だからこそ彼は、私情よりも国益を優先するはずなのだ。
ルドヴィクは深いエメラルド色の隻眼を揺らめかせながら、アリーチェを見据えた。
その様子はまるでルドヴィク自身を現しているようにアリーチェには思えた。
「お忙しいところお時間をいただき申し訳ございません」
「謝罪の必要はない」
カーテシーをするアリーチェに向かってぴしゃりと言い放つと、ルドヴィクは椅子に座るようにアリーチェに指示をした。
「………話があると聞いたが?」
侍女がお茶を差し出したタイミングで、先に口を開いたのはルドヴィクだった。
「はい。………わたくしは、意識のないままにこの国に来て、今まで陛下のご厚意により、平穏な日々を過ごして参りましたが………陛下はわたくしのことを客人だと仰いましたが、亡国の………敗戦国の王女であるわたくしを、何故捕虜ではなく客人として扱われるのかが不思議でならないのです」
彼にとって自分は何者なのか。
それはアリーチェがずっと疑問に思ってきた事だった。
生かしておいても害にしかならないはずの自分を助け、治療を施し、幽閉しながらも気にかけてくれる。
かと思えば、自分を憎むように懇願してくる。
一体彼の本心はどこにあるのだろうということが、アリーチェを悩ませていた。
「………私が『客人』として扱うと決めた。それだけだ」
「わたくしを客人として扱うことで、陛下にはどのような利点があるのですか?」
アリーチェが虹色の瞳を真っ直ぐにルドヴィクに向けると、ルドヴィクは一瞬怯んだように見えた。
そして形の良い唇を真一文字に引き結ぶ。
「…………」
またしても沈黙が、覆いかぶさってきた。
ルドヴィクは口数が少ないとクロードが言っていたが、確かにそのとおりだと思う。
それどころか、彼は滅多に感情を表に出さない。
彼が彼自身を曝け出したのは、アリーチェに自分を憎んで欲しいと懇願してきた、あの時だけのように思えた。
国を統べる立場にある者としては当然のことなのかもしれないが、ルドヴィクは必要以上に己を律し、感情を押し殺しているようにすら感じられる。
そんなルドヴィクの、深いエメラルド色の瞳が不安気に揺れるのを見て、アリーチェは目を瞬いた。
「………利点がなければ、おかしいのだろうか?」
長い沈黙が漸く破られ、ルドヴィクは低い声で呻くように呟いた。
「陛下はお立場上、イザイアの国益を第一に考えて行動なさるはずだと思いますが、違うのですか?」
国王とは、国のためにあるものだと父がよく口にしていたのを思い出しながらアリーチェは言葉を選ぶ。
カヴァニスにいた頃からの評判でも、実際にイザイアに来てからも、ルドヴィクが良い施政者であるということが伺えた。
だからこそ彼は、私情よりも国益を優先するはずなのだ。
ルドヴィクは深いエメラルド色の隻眼を揺らめかせながら、アリーチェを見据えた。
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