上 下
28 / 351

27.疑問

しおりを挟む
この部屋に入るのは二度目だったが、相変わらず部屋全体が冷たい空気に満たされていた。
その様子はまるでルドヴィク自身を現しているようにアリーチェには思えた。

「お忙しいところお時間をいただき申し訳ございません」
「謝罪の必要はない」

カーテシーをするアリーチェに向かってぴしゃりと言い放つと、ルドヴィクは椅子に座るようにアリーチェに指示をした。

「………話があると聞いたが?」

侍女がお茶を差し出したタイミングで、先に口を開いたのはルドヴィクだった。

「はい。………わたくしは、意識のないままにこの国に来て、今まで陛下のご厚意により、平穏な日々を過ごして参りましたが………陛下はわたくしのことを客人だと仰いましたが、亡国の………敗戦国の王女であるわたくしを、何故捕虜ではなく客人として扱われるのかが不思議でならないのです」

彼にとって自分は何者なのか。
それはアリーチェがずっと疑問に思ってきた事だった。
生かしておいても害にしかならないはずの自分を助け、治療を施し、幽閉しながらも気にかけてくれる。
かと思えば、自分を憎むように懇願してくる。
一体彼の本心はどこにあるのだろうということが、アリーチェを悩ませていた。

「………私が『客人』として扱うと決めた。それだけだ」
「わたくしを客人として扱うことで、陛下にはどのような利点があるのですか?」

アリーチェが虹色の瞳を真っ直ぐにルドヴィクに向けると、ルドヴィクは一瞬怯んだように見えた。
そして形の良い唇を真一文字に引き結ぶ。

「…………」

またしても沈黙が、覆いかぶさってきた。
ルドヴィクは口数が少ないとクロードが言っていたが、確かにそのとおりだと思う。
それどころか、彼は滅多に感情を表に出さない。
彼が彼自身を曝け出したのは、アリーチェに自分を憎んで欲しいと懇願してきた、あの時だけのように思えた。

国を統べる立場にある者としては当然のことなのかもしれないが、ルドヴィクは必要以上に己を律し、感情を押し殺しているようにすら感じられる。

そんなルドヴィクの、深いエメラルド色の瞳が不安気に揺れるのを見て、アリーチェは目を瞬いた。

「………利点がなければ、おかしいのだろうか?」

長い沈黙が漸く破られ、ルドヴィクは低い声で呻くように呟いた。

「陛下はお立場上、イザイアの国益を第一に考えて行動なさるはずだと思いますが、違うのですか?」

国王とは、国のためにあるものだと父がよく口にしていたのを思い出しながらアリーチェは言葉を選ぶ。

カヴァニスにいた頃からの評判でも、実際にイザイアに来てからも、ルドヴィクが良い施政者であるということが伺えた。
だからこそ彼は、私情よりも国益を優先するはずなのだ。

ルドヴィクは深いエメラルド色の隻眼を揺らめかせながら、アリーチェを見据えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

【R18】私は婚約者のことが大嫌い

みっきー・るー
恋愛
侯爵令嬢エティカ=ロクスは、王太子オブリヴィオ=ハイデの婚約者である。 彼には意中の相手が別にいて、不貞を続ける傍ら、性欲を晴らすために婚約者であるエティカを抱き続ける。 次第に心が悲鳴を上げはじめ、エティカは執事アネシス=ベルに、私の汚れた身体を、手と口を使い清めてくれるよう頼む。 そんな日々を続けていたある日、オブリヴィオの不貞を目の当たりにしたエティカだったが、その後も彼はエティカを変わらず抱いた。 ※R18回は※マーク付けます。 ※二人の男と致している描写があります。 ※ほんのり血の描写があります。 ※思い付きで書いたので、設定がゆるいです。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

処理中です...