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24.己の心
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その夜。
アリーチェは気持ちが落ち着かないせいでなかなか寝付けずにいた。
カヴァニスの生き残りのこと。
アドニスの街のこと。
ルドヴィクのこと。
そして、クロードから言われたこと。
その全てが、大きな嵐のようにアリーチェの心を掻き乱す。
「………誰か、いる?」
アリーチェは寝台から起き上がり声を掛けるが、室内は静まり返っていて人の気配はない。
あの鉄格子の部屋にいた時は、夜も数人の侍女が交代でアリーチェの部屋に控えていた筈だが、部屋を移動してからはあの息が詰まりそうな生活から随分と変化があった。
「夜の見張りは、部屋の外だけになったのね………」
アリーチェは独り呟くと、寝台を降りて窓の方へと向かった。
そして窓枠に手を掛けるが、そこではっと気がついた。
一体自分は何をしようとしているのだろう。
磨き抜かれた窓硝子に映った自分の姿に、うっすらと自嘲の笑みを浮かべた。
このような薄手の夜着しか身に着けていないのに、この部屋を抜け出してアドニスの街へ行こうとするなど、まともな考えとは思えなかった。
それにいくら室内に誰もいなくても、部屋の外には大勢の騎士たちが控えているだろうし、万が一うまく部屋を出られたとしても、城の中を通り抜けるのに、誰にも見つからずやり過ごすのは不可能だろう。
「………そもそもアドニスに行って、わたくしは何をしようとしていたの………?」
アリーチェは月明かりを反射する、氷のような硝子にそっと触れた。
冷たさが、指先を侵蝕していく。
あんなにも強く、ルドヴィクへの復讐を誓った筈なのに、その気持ちを忘れ、ただ毎日を過ごしているだけの自分が、同じ志を持つ祖国の民と合流できたとして、一体何が出来るというのだろう。
アリーチェの心に、ずしりと重たい何かが、伸し掛かってきたような気がした。
カヴァニスにいた頃は、もっと溌溂としていて、自分の意志ははっきりと告げることが出来たのに、全てを失った瞬間から、自分が酷く臆病になったように、アリーチェは感じていた。
ルドヴィクがどうのと考える以前に、自分自身が何をすべきなのか、何がしたいのかすらも分からない。
「………わたくしは、本当に愚かだわ………」
小さく呟くと、アリーチェは硝子に触れたまま、ぎゅっと手を握りしめた。
そして、何度か深く呼吸を繰り返して己の心を落ちつかせてから、今度は天井を仰ぐ。
自分は今一体、何を望み、何を為すべきなのか。
アリーチェはそのままの状態で、空が白み始める頃までずっと、自分自身に向き合うのだった。
アリーチェは気持ちが落ち着かないせいでなかなか寝付けずにいた。
カヴァニスの生き残りのこと。
アドニスの街のこと。
ルドヴィクのこと。
そして、クロードから言われたこと。
その全てが、大きな嵐のようにアリーチェの心を掻き乱す。
「………誰か、いる?」
アリーチェは寝台から起き上がり声を掛けるが、室内は静まり返っていて人の気配はない。
あの鉄格子の部屋にいた時は、夜も数人の侍女が交代でアリーチェの部屋に控えていた筈だが、部屋を移動してからはあの息が詰まりそうな生活から随分と変化があった。
「夜の見張りは、部屋の外だけになったのね………」
アリーチェは独り呟くと、寝台を降りて窓の方へと向かった。
そして窓枠に手を掛けるが、そこではっと気がついた。
一体自分は何をしようとしているのだろう。
磨き抜かれた窓硝子に映った自分の姿に、うっすらと自嘲の笑みを浮かべた。
このような薄手の夜着しか身に着けていないのに、この部屋を抜け出してアドニスの街へ行こうとするなど、まともな考えとは思えなかった。
それにいくら室内に誰もいなくても、部屋の外には大勢の騎士たちが控えているだろうし、万が一うまく部屋を出られたとしても、城の中を通り抜けるのに、誰にも見つからずやり過ごすのは不可能だろう。
「………そもそもアドニスに行って、わたくしは何をしようとしていたの………?」
アリーチェは月明かりを反射する、氷のような硝子にそっと触れた。
冷たさが、指先を侵蝕していく。
あんなにも強く、ルドヴィクへの復讐を誓った筈なのに、その気持ちを忘れ、ただ毎日を過ごしているだけの自分が、同じ志を持つ祖国の民と合流できたとして、一体何が出来るというのだろう。
アリーチェの心に、ずしりと重たい何かが、伸し掛かってきたような気がした。
カヴァニスにいた頃は、もっと溌溂としていて、自分の意志ははっきりと告げることが出来たのに、全てを失った瞬間から、自分が酷く臆病になったように、アリーチェは感じていた。
ルドヴィクがどうのと考える以前に、自分自身が何をすべきなのか、何がしたいのかすらも分からない。
「………わたくしは、本当に愚かだわ………」
小さく呟くと、アリーチェは硝子に触れたまま、ぎゅっと手を握りしめた。
そして、何度か深く呼吸を繰り返して己の心を落ちつかせてから、今度は天井を仰ぐ。
自分は今一体、何を望み、何を為すべきなのか。
アリーチェはそのままの状態で、空が白み始める頃までずっと、自分自身に向き合うのだった。
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