隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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21.生き残り

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暫くして戻ってきたジネーヴラの手には、数日分の新聞ジュルナルがあった。

「直近の日程数日分の新聞ジュルナルですが、アリーチェ様が気に留めるような内容のものは何一つ載っていないと思いますけれど………」

ジネーヴラは困ったように微笑んだ。

「大丈夫よ。本当に、どんな出来事があったのかを確かめたいだけなの」

アリーチェはジネーヴラから新聞ジュルナルを受け取ると、新しいものから順番に、文字を追い始めた。

軍馬の産地で仔馬が生まれただの、灌漑設備の大改修がおわっただのという、比較的平和な内容のものが殆どだった。

やはり、滅んだ小国の生き残りに関する情報など、人々は関心すら抱かないのだと落胆しながら新聞ジュルナルを閉じようとした、その時だった。

アリーチェの目に、一つの記事が飛び込んできたのだ。

『アドニス周辺で行方不明者多数』

不穏な見出しの割には、比較的小さな記事だった。
アドニスの街周辺で若い女性が数名行方不明になっているというもので、騎士団や自警団が捜索をしているらしい。

アドニスの街。
それは朝方耳にした町の名前と一致していた。
ただの偶然にしては不自然な気がして、アリーチェはじっとその記事を見つめる。

「………アリーチェ様?」

黙ったまま微動だにしないアリーチェに、ジネーヴラが心配そうに声を掛けてくる。

「アドニスの街は………治安の悪い所なのかしら?」
「アドニスですか?………あそこは、ブロンザルドに向かう街道沿いにあって、比較的大きな街ですから、とても賑やかな所です。人口も多いですから、治安がいいかと言われると…………まあそれなりですね。それでも、陛下が国王になられてからはどの街も安全になりましたし、昔に比べれば、この国はとても良くなったのですよ」
「…………そう…………」

イザイアの地理には詳しくないが、ブロンザルドに近い街、ということはここから北の方角にある街だということが解る。
何故そんな街にカヴァニスの生き残りが集まっているのかとアリーチェは不思議に思った。

「アドニスの街は、ウェルシュという名物料理が有名なんです。麦芽酒に浸したパンにチーズをかけて焼くシンプルな料理なのですが、とても美味しいんですよ」
「………ビールを料理に使うのね。カヴァニスは葡萄酒が名産だったから、麦芽酒はあまり口にしたことがないわ」

少しでもアドニスの情報を仕入れたくて、アリーチェがジネーヴラの話に興味を示すと、ジネーヴラは色々と教えてくれた。

アドニスは煉瓦造りの町並みが美しく、古い城塞が残る街らしい。
人口も多いのであれば、追われる立場の人間が身を隠すには適切な場所であるとも考えられるだろう。

もしかしたら、そこでカヴァニスの生き残りたちが反旗を翻す機会を伺っているのかもしれない。
アリーチェはジネーヴラの話に耳を傾けながら、どうすればアドニスの街に行くことができるのかを考え始めていた。
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