隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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12.執務室にて(ルドヴィク視点)

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その日の夜。
山になった書類を確認しながら、薄暗い執務室の中でルドヴィクは、彼が最も信頼をしている側近の一人、クロード・セリエール侯爵からの報告を苛立たしげに聞いていた。

「つまりは、取り逃したということだな」
「はい、申し訳ございません」

ルドヴィクはたった一つの瞳を、幼馴染でもあるクロードに向ける。

「既にアリーチェ姫の居場所を突き止められた可能性はあるのか?」
「………奴が入り込んだのは、姫君のお部屋が見える庭園でしたので、その可能性は十分にあるかと」

クロードは心底申し訳ないといったように、榛色の瞳を伏せると深々と頭を下げた。

「何か月もアリーチェ姫にあのような生活をさせていたのに、何もかもが失敗に終わったかもしれないという事か」

ルドヴィクは盛大に溜息をつくと、立ち上がった。
燭台の明かりに照らされた鼻梁は顔の反対側に影を落とし、彫りの深さが強調されている。
深いエメラルド色の隻眼に、苦悩と怒りが滲むのを、クロードははっきりと見て取った。

幼い頃からルドヴィクを知る彼も、ルドヴィクがこのように感情を、しかも怒りを顕にするところは滅多に見たことがなく、些か驚きを隠せない様子だった。

「………アリーチェ姫に、真実を伝えられるおつもりはないのですか………?」

常々思っていた疑問を、クロードが躊躇い勝ちに口にすると、先程浮かび上がった感情を隠すかのように、ルドヴィクは隻眼を伏せた。

「………彼女が、全てを知る必要はない。………それに、全てを知ったらあの心優しい王女はきっと………」

そこまで言って口籠ると、ルドヴィクは両手を強く握りしめる。

アリーチェは自分を憎んでいる。彼女にそういう感情を抱かせたのはルドヴィク自身なのだから、それは当然だろう。
余計なことは考えず、ただ自分を憎み、自分への復讐を果たすことだけを考えて生きてくれればいい。
ルドヴィクは心からそう願っていた。

「………それでは、誰一人報われることがないのではないですか………」

悲しげな表情を浮かべたクロードが静かに呟くと、ルドヴィクは口元にだけ笑みを浮かべた。

「初めから報われようなどと考えてはいない。……余計なことを心配している暇があれば、さっさとその闖入者を捕まえるように騎士団の連中に伝えることだな」

クロードの苦言をバッサリと切り捨てると、ルドヴィクは軽くクロードを睨みつけた。
そんな主に、クロードは溜息をつく。

「どうしてあなたはいつもそうやって茨の道ばかりを選んで歩もうとなさるんですかね………」
「………茨の道とて、進めぬ道ではない」

そう吐き捨てると、部屋に漂う冷気のせいなのか、失って久しい左目が疼き出した気がして、ルドヴィクは眼帯の上からそっと手を触れる。
痛みも、苦しみも、そして己の過去もとっくに忘れたと思っていたのに、この忌まわしい傷が疼くのはきっと、クロードが余計なことを言うからだと思いながら眼帯に触れた手を握り締めた。
ルドヴィクはやや乱暴に椅子に腰を下ろすと、もう一度溜息をついてから、執務机の上に広げられた書類へと視線を落とす。
そんな主の姿を気遣わし気に長めながら、クロードはそっと部屋を出るのだった。
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