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10.変化
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結局その日の晩餐はそのまま終わりとなった。
だがそれ以降、度々ルドヴィクが部屋を訪れて、部屋の外へと連れ出してくれるようになった。
「歩くのは、辛くないか?」
今日は城の中にある、王族専用の庭園に誘われていた。
「ええ、大丈夫です」
あの晩餐の時、食堂までの距離を歩くだけで疲れてしまっていたことも彼は気が付いていたようで、室外に連れ出すときはアリーチェの歩みに合わせてくれ、ことあるごとに体調を気遣う素振りを見せる。
そうした彼の振る舞いが、自分の心を揺さぶるのだということは重々承知しているのに、何故か彼からの誘いを突っぱねることができなかった。
彼への憎しみとは別の何かが芽生えているような気がして、その恐ろしさにアリーチェは思わず身震いをした。
「寒いか?」
すかさずルドヴィクがアリーチェの変化に気が付く。
彼がこうも人の動きに敏感なのは、やはり彼が戦いに慣れた人間だからのだろうか。
静かにその問いかけを否定すると、アリーチェは徐に天を仰いだ。
そこには雲一つない、抜けるような蒼空が広がっていた。
(あの日の空は………どんなだったか、もう思い出せないわ………)
何を見ても、カヴァニス王国最後の日のことに繋がっていくのに、どんどん記憶が曖昧になっていく。
ただただ、どこまでも熱くて紅い炎の鮮明さと、果てしない絶望、そしてルドヴィクのことだけがはっきりと刻まれているだけだ。
「我が国の寒さは格別だ。イザイアの気候に慣れていないあなたには、この時期でも風が冷たいだろう。次からはもう少し温かくして来た方がいい」
「………次も、あるのですか?」
ふと思ったことを口にすると、ルドヴィクが不機嫌そうに眉を顰めるのが目に入り、アリーチェは後悔した。
最初の頃であれば、彼が機嫌を損ねようが構わないと思っていたはずなのに、知らず知らずのうちに彼が何を感じ、何を考えているのかを探り、彼が不機嫌にならないようにと無意識に考えてしまっていることに気が付き、愕然とする。
(まるで、彼に嫌われたくないと思っているみたいじゃない………)
自分のことなのに、どんどん自分が分からなくなっていく。
この手で、彼を苦しめて殺してやりたいと強く願っているはずなのに、どうして彼に嫌われたくないなどと考えるのだろう。
はじめは、小さなひび割れ程度の矛盾だったはずなのに、それはいつの間にか取り返しがつかないくらいに大きな亀裂となって、アリーチェを飲み込んでいた。
「あなたが、望むならば」
静かな声で、ルドヴィクは囁く。
その声は酷く優しくて、アリーチェはまた心がざわつくのを感じた。
ただ純粋に、憎む理由だけを与えてくれるのならば、どれだけ楽だろう。
もしかすると彼はこうして自分を苦しめようとしているのかとすら感じてしまう。
そんな不安定な気持ちを隠すように、アリーチェは庭園に咲き誇る晩秋の花々に目を移すのだった。
だがそれ以降、度々ルドヴィクが部屋を訪れて、部屋の外へと連れ出してくれるようになった。
「歩くのは、辛くないか?」
今日は城の中にある、王族専用の庭園に誘われていた。
「ええ、大丈夫です」
あの晩餐の時、食堂までの距離を歩くだけで疲れてしまっていたことも彼は気が付いていたようで、室外に連れ出すときはアリーチェの歩みに合わせてくれ、ことあるごとに体調を気遣う素振りを見せる。
そうした彼の振る舞いが、自分の心を揺さぶるのだということは重々承知しているのに、何故か彼からの誘いを突っぱねることができなかった。
彼への憎しみとは別の何かが芽生えているような気がして、その恐ろしさにアリーチェは思わず身震いをした。
「寒いか?」
すかさずルドヴィクがアリーチェの変化に気が付く。
彼がこうも人の動きに敏感なのは、やはり彼が戦いに慣れた人間だからのだろうか。
静かにその問いかけを否定すると、アリーチェは徐に天を仰いだ。
そこには雲一つない、抜けるような蒼空が広がっていた。
(あの日の空は………どんなだったか、もう思い出せないわ………)
何を見ても、カヴァニス王国最後の日のことに繋がっていくのに、どんどん記憶が曖昧になっていく。
ただただ、どこまでも熱くて紅い炎の鮮明さと、果てしない絶望、そしてルドヴィクのことだけがはっきりと刻まれているだけだ。
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「………次も、あるのですか?」
ふと思ったことを口にすると、ルドヴィクが不機嫌そうに眉を顰めるのが目に入り、アリーチェは後悔した。
最初の頃であれば、彼が機嫌を損ねようが構わないと思っていたはずなのに、知らず知らずのうちに彼が何を感じ、何を考えているのかを探り、彼が不機嫌にならないようにと無意識に考えてしまっていることに気が付き、愕然とする。
(まるで、彼に嫌われたくないと思っているみたいじゃない………)
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この手で、彼を苦しめて殺してやりたいと強く願っているはずなのに、どうして彼に嫌われたくないなどと考えるのだろう。
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「あなたが、望むならば」
静かな声で、ルドヴィクは囁く。
その声は酷く優しくて、アリーチェはまた心がざわつくのを感じた。
ただ純粋に、憎む理由だけを与えてくれるのならば、どれだけ楽だろう。
もしかすると彼はこうして自分を苦しめようとしているのかとすら感じてしまう。
そんな不安定な気持ちを隠すように、アリーチェは庭園に咲き誇る晩秋の花々に目を移すのだった。
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