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本編

第七十三話

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私の、聞き間違いではありませんわよね?
今、ジェイド様が「ありがとう」と仰ったように聞こえたのですが。
今まで、お礼を言われたことなんてあったかしら?

「ずっと、看病してくれていたのだろう?美しい髪が乱れてしまっているではないか………」
「あ………」

怪我をしていない方の手を伸ばし、ジェイド様が私の髪に触れる。
それだけで、私は胸が高鳴るのを感じた。
ジェイド様が好きだと気がついた途端に、体の反応はこんなにも鮮明になるのね。

「私が、そうしたかったのです。ご迷惑かもしれませんが、私はジェイド様の一番近くにいたいのです」

お義母様に言われたとおりに、素直に自分の気持ちをそのまま言葉にしてみる。
すると、何故かジェイド様の顔がみるみる赤くなっていく。

「………そなたは、私を殺す気か」
「大変、また熱が上がってきたのですか?すぐにお医者様を呼びに………」

私が立ち上がろうとすると、手首を掴まれた。

「誰が私から離れていいと言った」
「ジェイド、さま………?」

ベッドに横たわったままの、ジェイド様の琥珀色の瞳が揺らめいた。

「………迷惑な訳があるか。そなたにそんな事を言われたら、もう公爵家にも返したくなくなる」

ひときわ大きく、鼓動が跳ねた。
それって、まさか………。

「エリーゼ。私はそなたのことが………」
「失礼します。鎮痛薬をお持ちしましたよ」

ガチャリと扉が開き、お医者様が姿を現した。
………肝心なところで邪魔が入るって、いくらなんでもお約束過ぎませんこと?

※※※※※

それから、私は王宮に用意して貰った別室で休ませてもらった。
緊張が解けて、疲れが出ているはずなのに、全く眠れないのは、さっきジェイド様が言いかけた言葉の続きが気になって眠れないから。
ああ、もう!期待させるだけさせてお預けなんて酷すぎるわ。
結局あの後鎮痛薬を飲んだジェイド様はまた眠ってしまったし………。

「ジェイド様も、私の事を想ってくださっているって、少しは期待してもいいのかしら………」

でも、恋愛小説なんかでよく見る展開だと、あのまま想いを伝えあってそつわと口吻をするという流れよね………。
駄目よ、ふしだらだわ。例え気持ちが通じ合っても、体は清いままでいないと。
もう、余計なことしか頭に浮かんでこないわ。
私は悶々としながら、王宮での一夜を過ごしたのだった。
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