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本編
第七十話
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それから、どれ位時間が立ったのだろうか。
陽が沈みかけてきた。でも、ジェイド様は相変わらずのご様子で、一向に意識が戻る気配がない。
時折、うなされなから私の名を呼んでくださるけれど、私が答えても反応はなく、その度に私は、胸がぎゅっと締め付けられて苦しくなるのを感じた。ジェイド様に付いていることしか出来ないなんて、自分の無力さが歯痒い。
「ジェイド様………」
視界が溢れ始めた涙で、歪み始めた。
泣いている場合ではないのに、止まらない。
ジェイド様の、怪我していない方の手を握りながら、私はジェイド様をお救いくださるように、ユピテル神に祈った。
「………私と妃は、そろそろ戻る。容態が変わるようなら呼ぶように」
陛下が、静かに告げた。
「エリーゼちゃん。今日はこちらに部屋を用意するわ。公爵家にもこちらから使いを出すから、少し休みなさいな」
「いいえ、王妃様。お許しいただけるのであれば、私はジェイド様が意識を取り戻すまではお側に居たいのです。未婚の、それも婚約者でもない男女が一夜を同室で過ごすなど、不貞と見做されるかもしれませんが、やましい気持ちは一切ございません。ジェイド様の為に処罰を受けるのであれば構いませんわ」
これは、私のわがままでしかないし、ここにいても無力なのはわかっているわ。
でも、ジェイド様は私を呼んでくださる。それだけでもこの身を捧げるには十分ですもの。
「………それは、ジェイドの従者としての覚悟かしら?」
王妃様が、少し驚かれたような顔で私に尋ねられる。国王陛下も、同じ様な表情をされているわ。
「………いいえ。従者としてではなく、私の………カレル王国侯爵令嬢エリーゼ・マロウとしての覚悟でございます」
役目なんかではない。私が、自分で望んでそうしたい。
その気持ちを、私は堂々と宣言した。
「………そう。では私はエリーゼちゃんの意志を尊重するわ」
「私も妃と同感だ。どうか、ジェイドを頼む」
陛下と王妃様の表情が、優しいものに変わる。
私は、お二人に向かって深く頭を下げた。
陽が沈みかけてきた。でも、ジェイド様は相変わらずのご様子で、一向に意識が戻る気配がない。
時折、うなされなから私の名を呼んでくださるけれど、私が答えても反応はなく、その度に私は、胸がぎゅっと締め付けられて苦しくなるのを感じた。ジェイド様に付いていることしか出来ないなんて、自分の無力さが歯痒い。
「ジェイド様………」
視界が溢れ始めた涙で、歪み始めた。
泣いている場合ではないのに、止まらない。
ジェイド様の、怪我していない方の手を握りながら、私はジェイド様をお救いくださるように、ユピテル神に祈った。
「………私と妃は、そろそろ戻る。容態が変わるようなら呼ぶように」
陛下が、静かに告げた。
「エリーゼちゃん。今日はこちらに部屋を用意するわ。公爵家にもこちらから使いを出すから、少し休みなさいな」
「いいえ、王妃様。お許しいただけるのであれば、私はジェイド様が意識を取り戻すまではお側に居たいのです。未婚の、それも婚約者でもない男女が一夜を同室で過ごすなど、不貞と見做されるかもしれませんが、やましい気持ちは一切ございません。ジェイド様の為に処罰を受けるのであれば構いませんわ」
これは、私のわがままでしかないし、ここにいても無力なのはわかっているわ。
でも、ジェイド様は私を呼んでくださる。それだけでもこの身を捧げるには十分ですもの。
「………それは、ジェイドの従者としての覚悟かしら?」
王妃様が、少し驚かれたような顔で私に尋ねられる。国王陛下も、同じ様な表情をされているわ。
「………いいえ。従者としてではなく、私の………カレル王国侯爵令嬢エリーゼ・マロウとしての覚悟でございます」
役目なんかではない。私が、自分で望んでそうしたい。
その気持ちを、私は堂々と宣言した。
「………そう。では私はエリーゼちゃんの意志を尊重するわ」
「私も妃と同感だ。どうか、ジェイドを頼む」
陛下と王妃様の表情が、優しいものに変わる。
私は、お二人に向かって深く頭を下げた。
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