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本編
第二十話
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「しかし………」
お父様はまだ渋ってますわね。ビッテルハイム男爵家は当主と令嬢が死刑なのだから当然取り潰しになるでしょうし、ジャーマンダー公爵家も爵位返上と嫡子死刑で同じく貴族社会からは除籍となる。我が家も被害を被った側とはいえ、騒動の渦中にいるのだからまるでお咎めなしで、それどころかお父様は昇進するなんて、誰も納得しないでしょう。
「では、エリーゼ嬢の身柄を私が預かるのなら問題はなくなるだろう?」
はい?えーと、第二王子殿下?今なんと仰いました?
「で、殿下?」
蠱惑的な笑みを浮かべる殿下に、陛下も、公爵様も、お父様も戸惑いを隠せないご様子。
「私は今、遊学中の身なのだが、見聞を広めるついでに他国の貴族子女から優秀な人材を探して私の従者にしようと考えていた。昨夜たまたまこの国の貴族子女が集まる夜会があると聞いて顔を出したら件の騒動があった訳だが………」
ええ、それは誠に申し訳ない上にお恥ずかしいですわ。
「エリーゼ嬢は実に素晴らしい令嬢だ。『冷酷姫』の名に違わぬ冷静さと聡明さ、それに物事の本質を見抜く力を持っている。………先程の惨状を目の前にしても悲鳴も上げず、気も失わない度胸も気に入った。私がエリーゼ嬢を連れていけば、侯爵家から勘当されたと思わせることができるだろう。どちらにも利はある」
悲鳴も上げなければ気も失わない図太い令嬢で申し訳ないですわね。ちなみに殿下、そこに私の意思は反映されておりませんけどね。
「私に、娘を手放せと?」
「公爵家と婚約を結ばせた時と大して変わりあるまい。コーネリアス、そなたはマロウ侯爵家当主として最善の選択をしたのだろう?」
殿下は、言葉巧みにお父様を追い詰める。それを言われると反論できませんわね。私自身は何とも思ってませんけれど、端から見れば借金返済の見返りに娘を売ったとなりますもの。
「確かに殿下の提案は上手く事が収まるでしょうが、娘の意志も尊重してやりたいのが親心です」
こういう、空気が読めない所がお父様の悪いところだわ。ジャーマンダー公爵様の前で言うような言葉ではありませんわね。
私は溜息をつくと、公爵様を見る。視線に気付いた公爵様は少しだけ微笑んだ。
「エリーゼ嬢、どうだ?」
「殿下の望むままに」
これ、断るって選択肢は私にありませんわよね。
とりあえずそれだけ告げて淑女の礼をとると、殿下は満足そうに笑った。
「これで文句は無かろう、コーネリアス?」
お父様はまだ渋ってますわね。ビッテルハイム男爵家は当主と令嬢が死刑なのだから当然取り潰しになるでしょうし、ジャーマンダー公爵家も爵位返上と嫡子死刑で同じく貴族社会からは除籍となる。我が家も被害を被った側とはいえ、騒動の渦中にいるのだからまるでお咎めなしで、それどころかお父様は昇進するなんて、誰も納得しないでしょう。
「では、エリーゼ嬢の身柄を私が預かるのなら問題はなくなるだろう?」
はい?えーと、第二王子殿下?今なんと仰いました?
「で、殿下?」
蠱惑的な笑みを浮かべる殿下に、陛下も、公爵様も、お父様も戸惑いを隠せないご様子。
「私は今、遊学中の身なのだが、見聞を広めるついでに他国の貴族子女から優秀な人材を探して私の従者にしようと考えていた。昨夜たまたまこの国の貴族子女が集まる夜会があると聞いて顔を出したら件の騒動があった訳だが………」
ええ、それは誠に申し訳ない上にお恥ずかしいですわ。
「エリーゼ嬢は実に素晴らしい令嬢だ。『冷酷姫』の名に違わぬ冷静さと聡明さ、それに物事の本質を見抜く力を持っている。………先程の惨状を目の前にしても悲鳴も上げず、気も失わない度胸も気に入った。私がエリーゼ嬢を連れていけば、侯爵家から勘当されたと思わせることができるだろう。どちらにも利はある」
悲鳴も上げなければ気も失わない図太い令嬢で申し訳ないですわね。ちなみに殿下、そこに私の意思は反映されておりませんけどね。
「私に、娘を手放せと?」
「公爵家と婚約を結ばせた時と大して変わりあるまい。コーネリアス、そなたはマロウ侯爵家当主として最善の選択をしたのだろう?」
殿下は、言葉巧みにお父様を追い詰める。それを言われると反論できませんわね。私自身は何とも思ってませんけれど、端から見れば借金返済の見返りに娘を売ったとなりますもの。
「確かに殿下の提案は上手く事が収まるでしょうが、娘の意志も尊重してやりたいのが親心です」
こういう、空気が読めない所がお父様の悪いところだわ。ジャーマンダー公爵様の前で言うような言葉ではありませんわね。
私は溜息をつくと、公爵様を見る。視線に気付いた公爵様は少しだけ微笑んだ。
「エリーゼ嬢、どうだ?」
「殿下の望むままに」
これ、断るって選択肢は私にありませんわよね。
とりあえずそれだけ告げて淑女の礼をとると、殿下は満足そうに笑った。
「これで文句は無かろう、コーネリアス?」
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