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学園二年生編

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気がつくと教室内はしんと静まり返っていて、異様な雰囲気につつまれていた。
皆オルティアとカトリーナ、そして私の方を見ている。
こんな騒ぎになれば当然なんだけど、どんどん騒ぎが大きくなっているような気がして私は怖くなる。

「家柄も、育ちも素晴らしいと胸を張って言えるようなご令嬢が盗み聞きや盗み見だなんて、随分と卑しい真似をするじゃないか」
「……………っ!」

嘲りを含んだ笑顔を向けて、オルティアが吐き捨てるようにそう言うと、カトリーナの頬がかあっと赤く染まった。
それが怒りのせいなのか、それともオルティアに痛い所を突かれた羞恥のせいなのかは私には分からない。

「…………何よ。たかが男爵家の、しかも男にも女にもなれないような半端者のくせに…………っ!!」

悲鳴に近い叫び声と共に、カトリーナがかっと目を見開いたかと思うと教室に飾られていた花瓶を掴み、オルティアへと向かって投げつけた。

「…………っ!」

無意識のうちに体が動いた。
私は、勢いよくオルティアの前に立ち塞がったのだった。

ガシャンッ

陶器が割れる、乾いているけれど重たい音が響いた。
それと同時に、こめかみよりもやや上のあたりに強い衝撃と、痛み、そして視界がぐらりと歪む感覚が一度に襲ってきた。
衝撃で、体が傾くのが分かったけれど、受け身を取ることも出来ず、私は人形のようにそのまま倒れた。
頭に強い衝撃を受けると目の前に星が飛ぶって聞いたことがあるけれど、どうやらそれは嘘じゃなかったみたい。
目の前がチカチカして、それなのにだんだん暗くなってきた。

「ジュリア!!」

慌てたようなオルティアの声が、聞こえた気がしたけれど、私の意識は闇に吸い込まれ、返事をしたくても出来ない。
貧血で倒れたときの感覚と、似ているけれど、違う。
でもこの感覚は、知っている気がする。
もう纏まらない思考回路で懸命に思い出そうとしていると、手足の感覚、そして呼吸の感覚がなくなってきた。

………ああ、前世で死んだ時に似ているんだ。
私、また死んじゃうのかな。
結局また、私は私のまま、変わることは出来なかったけれど、それでもアルフレッド様やオルティアは、私が死んだら、悲しんでくれるのかな。

ぼんやりとした意識の中で、私が最後に考えたのは、そんな事だった。
そしてすぐに、舞台の幕が降りてくるように、私の意識は、そこで途切れた。
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