54 / 61
学園二年生編
17
しおりを挟む
気がつくと教室内はしんと静まり返っていて、異様な雰囲気につつまれていた。
皆オルティアとカトリーナ、そして私の方を見ている。
こんな騒ぎになれば当然なんだけど、どんどん騒ぎが大きくなっているような気がして私は怖くなる。
「家柄も、育ちも素晴らしいと胸を張って言えるようなご令嬢が盗み聞きや盗み見だなんて、随分と卑しい真似をするじゃないか」
「……………っ!」
嘲りを含んだ笑顔を向けて、オルティアが吐き捨てるようにそう言うと、カトリーナの頬がかあっと赤く染まった。
それが怒りのせいなのか、それともオルティアに痛い所を突かれた羞恥のせいなのかは私には分からない。
「…………何よ。たかが男爵家の、しかも男にも女にもなれないような半端者のくせに…………っ!!」
悲鳴に近い叫び声と共に、カトリーナがかっと目を見開いたかと思うと教室に飾られていた花瓶を掴み、オルティアへと向かって投げつけた。
「…………っ!」
無意識のうちに体が動いた。
私は、勢いよくオルティアの前に立ち塞がったのだった。
ガシャンッ
陶器が割れる、乾いているけれど重たい音が響いた。
それと同時に、こめかみよりもやや上のあたりに強い衝撃と、痛み、そして視界がぐらりと歪む感覚が一度に襲ってきた。
衝撃で、体が傾くのが分かったけれど、受け身を取ることも出来ず、私は人形のようにそのまま倒れた。
頭に強い衝撃を受けると目の前に星が飛ぶって聞いたことがあるけれど、どうやらそれは嘘じゃなかったみたい。
目の前がチカチカして、それなのにだんだん暗くなってきた。
「ジュリア!!」
慌てたようなオルティアの声が、聞こえた気がしたけれど、私の意識は闇に吸い込まれ、返事をしたくても出来ない。
貧血で倒れたときの感覚と、似ているけれど、違う。
でもこの感覚は、知っている気がする。
もう纏まらない思考回路で懸命に思い出そうとしていると、手足の感覚、そして呼吸の感覚がなくなってきた。
………ああ、前世で死んだ時に似ているんだ。
私、また死んじゃうのかな。
結局また、私は私のまま、変わることは出来なかったけれど、それでもアルフレッド様やオルティアは、私が死んだら、悲しんでくれるのかな。
ぼんやりとした意識の中で、私が最後に考えたのは、そんな事だった。
そしてすぐに、舞台の幕が降りてくるように、私の意識は、そこで途切れた。
皆オルティアとカトリーナ、そして私の方を見ている。
こんな騒ぎになれば当然なんだけど、どんどん騒ぎが大きくなっているような気がして私は怖くなる。
「家柄も、育ちも素晴らしいと胸を張って言えるようなご令嬢が盗み聞きや盗み見だなんて、随分と卑しい真似をするじゃないか」
「……………っ!」
嘲りを含んだ笑顔を向けて、オルティアが吐き捨てるようにそう言うと、カトリーナの頬がかあっと赤く染まった。
それが怒りのせいなのか、それともオルティアに痛い所を突かれた羞恥のせいなのかは私には分からない。
「…………何よ。たかが男爵家の、しかも男にも女にもなれないような半端者のくせに…………っ!!」
悲鳴に近い叫び声と共に、カトリーナがかっと目を見開いたかと思うと教室に飾られていた花瓶を掴み、オルティアへと向かって投げつけた。
「…………っ!」
無意識のうちに体が動いた。
私は、勢いよくオルティアの前に立ち塞がったのだった。
ガシャンッ
陶器が割れる、乾いているけれど重たい音が響いた。
それと同時に、こめかみよりもやや上のあたりに強い衝撃と、痛み、そして視界がぐらりと歪む感覚が一度に襲ってきた。
衝撃で、体が傾くのが分かったけれど、受け身を取ることも出来ず、私は人形のようにそのまま倒れた。
頭に強い衝撃を受けると目の前に星が飛ぶって聞いたことがあるけれど、どうやらそれは嘘じゃなかったみたい。
目の前がチカチカして、それなのにだんだん暗くなってきた。
「ジュリア!!」
慌てたようなオルティアの声が、聞こえた気がしたけれど、私の意識は闇に吸い込まれ、返事をしたくても出来ない。
貧血で倒れたときの感覚と、似ているけれど、違う。
でもこの感覚は、知っている気がする。
もう纏まらない思考回路で懸命に思い出そうとしていると、手足の感覚、そして呼吸の感覚がなくなってきた。
………ああ、前世で死んだ時に似ているんだ。
私、また死んじゃうのかな。
結局また、私は私のまま、変わることは出来なかったけれど、それでもアルフレッド様やオルティアは、私が死んだら、悲しんでくれるのかな。
ぼんやりとした意識の中で、私が最後に考えたのは、そんな事だった。
そしてすぐに、舞台の幕が降りてくるように、私の意識は、そこで途切れた。
20
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?
陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。
この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。
執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め......
剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。
本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。
小説家になろう様でも掲載中です。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる