上 下
46 / 61
学園二年生編

9

しおりを挟む
「………なるほどな。だが、それとこれとは話は別だ」

少し考えるような素振りを見せたアルフレッド様は、冷たく言い放った。

「ジルを慰めるために抱きしめた?………私がお前の表情を見ていなかったとでも?」

アルフレッド様の表情は厳しかった。

「………さて、なんのことでしょうか?」

オルティアは全く思い当たるふしがないとでも言うかのように、肩をすくめてみせた。
前から思っていたけれど、オルティアは前世の記憶がある分、精神的に大人だ。
アルフレッド様だって、王太子としての教育の成果か、年齢よりもずっと大人びているけれど、オルティアとは比較にならない。

「とぼけるなよ」
「とぼけてなどいませんよ。それに、私が一体どんな表情をしていたというのですか?分かるように、説明してくださいますか?」

鼻で嘲笑うように、オルティアが目を伏せると、アルフレッド様は苛ついたようにオルティアを更に強い視線で睨みつける。
………最近は、仲良くしてくれてると思っていたけど、そうじゃなかったみたい。

「お前はジルに気があるんだろう?」

探るような、………どちらかというと牽制するような雰囲気を醸し出しながらアルフレッド様はオルティアの出方を伺っているみたいだ。

「………殿下、私は『女性』ですよ?」

ふっと嗤いながらオルティアは信じられない言葉を口にした。
トランスジェンダーについて、私だってそんなに詳しいわけじゃない。それでも、彼らがどんな気持ちで毎日を過ごしているのかくらいは、耳にしたことがあるから知っているつもりだ。
だから、オルティアがどんな気持ちでその一言を口にしたのかを想像するだけで、私は胸がぎゅっと締め付けられた。

認めなきゃいけないのに、認められない。………ううん、そんな軽いものではなくて………。到底認められないその事実をずっと抱えていて、それでも尚否定してきたはずなのに。………オルティアは前世からその葛藤に苦しめられてきたはずなのに。

ふと気がつくと、私の目からまた大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていた。

「あ…………」

突然泣き始めた私に、アルフレッド様もオルティアも、驚いたように私を見つめた。

「ジル?」
「ジュリア?!」

困惑すればするほど、涙が次々と溢れ出す。
違うのに。泣きたいのは私じゃなくてオルティアなのに。

「ふっ…………うぅ………」

そんな私を、アルフレッド様は困ったように眉を顰め、ご自分のシャツが汚れるのも構わずに私をぎゅっと抱き締めてくれたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

全ては望んだ結末の為に

皐月乃 彩月
恋愛
ループする世界で、何度も何度も悲惨な目に遭う悪役令嬢。 愛しの婚約者や仲の良かった弟や友人達に裏切られ、彼女は絶望して壊れてしまった。 何故、自分がこんな目に遇わなければならないのか。 「貴方が私を殺し続けるなら、私も貴方を殺し続ける事にするわ」 壊れてしまったが故に、悪役令嬢はヒロインを殺し続ける事にした。 全ては望んだ結末を迎える為に── ※主人公が闇落ち?してます。 ※カクヨムやなろうでも連載しています作:皐月乃 彩月 

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...