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学園二年生編
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「………なるほどな。だが、それとこれとは話は別だ」
少し考えるような素振りを見せたアルフレッド様は、冷たく言い放った。
「ジルを慰めるために抱きしめた?………私がお前の表情を見ていなかったとでも?」
アルフレッド様の表情は厳しかった。
「………さて、なんのことでしょうか?」
オルティアは全く思い当たるふしがないとでも言うかのように、肩をすくめてみせた。
前から思っていたけれど、オルティアは前世の記憶がある分、精神的に大人だ。
アルフレッド様だって、王太子としての教育の成果か、年齢よりもずっと大人びているけれど、オルティアとは比較にならない。
「とぼけるなよ」
「とぼけてなどいませんよ。それに、私が一体どんな表情をしていたというのですか?分かるように、説明してくださいますか?」
鼻で嘲笑うように、オルティアが目を伏せると、アルフレッド様は苛ついたようにオルティアを更に強い視線で睨みつける。
………最近は、仲良くしてくれてると思っていたけど、そうじゃなかったみたい。
「お前はジルに気があるんだろう?」
探るような、………どちらかというと牽制するような雰囲気を醸し出しながらアルフレッド様はオルティアの出方を伺っているみたいだ。
「………殿下、私は『女性』ですよ?」
ふっと嗤いながらオルティアは信じられない言葉を口にした。
トランスジェンダーについて、私だってそんなに詳しいわけじゃない。それでも、彼らがどんな気持ちで毎日を過ごしているのかくらいは、耳にしたことがあるから知っているつもりだ。
だから、オルティアがどんな気持ちでその一言を口にしたのかを想像するだけで、私は胸がぎゅっと締め付けられた。
認めなきゃいけないのに、認められない。………ううん、そんな軽いものではなくて………。到底認められないその事実をずっと抱えていて、それでも尚否定してきたはずなのに。………オルティアは前世からその葛藤に苦しめられてきたはずなのに。
ふと気がつくと、私の目からまた大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていた。
「あ…………」
突然泣き始めた私に、アルフレッド様もオルティアも、驚いたように私を見つめた。
「ジル?」
「ジュリア?!」
困惑すればするほど、涙が次々と溢れ出す。
違うのに。泣きたいのは私じゃなくてオルティアなのに。
「ふっ…………うぅ………」
そんな私を、アルフレッド様は困ったように眉を顰め、ご自分のシャツが汚れるのも構わずに私をぎゅっと抱き締めてくれたのだった。
少し考えるような素振りを見せたアルフレッド様は、冷たく言い放った。
「ジルを慰めるために抱きしめた?………私がお前の表情を見ていなかったとでも?」
アルフレッド様の表情は厳しかった。
「………さて、なんのことでしょうか?」
オルティアは全く思い当たるふしがないとでも言うかのように、肩をすくめてみせた。
前から思っていたけれど、オルティアは前世の記憶がある分、精神的に大人だ。
アルフレッド様だって、王太子としての教育の成果か、年齢よりもずっと大人びているけれど、オルティアとは比較にならない。
「とぼけるなよ」
「とぼけてなどいませんよ。それに、私が一体どんな表情をしていたというのですか?分かるように、説明してくださいますか?」
鼻で嘲笑うように、オルティアが目を伏せると、アルフレッド様は苛ついたようにオルティアを更に強い視線で睨みつける。
………最近は、仲良くしてくれてると思っていたけど、そうじゃなかったみたい。
「お前はジルに気があるんだろう?」
探るような、………どちらかというと牽制するような雰囲気を醸し出しながらアルフレッド様はオルティアの出方を伺っているみたいだ。
「………殿下、私は『女性』ですよ?」
ふっと嗤いながらオルティアは信じられない言葉を口にした。
トランスジェンダーについて、私だってそんなに詳しいわけじゃない。それでも、彼らがどんな気持ちで毎日を過ごしているのかくらいは、耳にしたことがあるから知っているつもりだ。
だから、オルティアがどんな気持ちでその一言を口にしたのかを想像するだけで、私は胸がぎゅっと締め付けられた。
認めなきゃいけないのに、認められない。………ううん、そんな軽いものではなくて………。到底認められないその事実をずっと抱えていて、それでも尚否定してきたはずなのに。………オルティアは前世からその葛藤に苦しめられてきたはずなのに。
ふと気がつくと、私の目からまた大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていた。
「あ…………」
突然泣き始めた私に、アルフレッド様もオルティアも、驚いたように私を見つめた。
「ジル?」
「ジュリア?!」
困惑すればするほど、涙が次々と溢れ出す。
違うのに。泣きたいのは私じゃなくてオルティアなのに。
「ふっ…………うぅ………」
そんな私を、アルフレッド様は困ったように眉を顰め、ご自分のシャツが汚れるのも構わずに私をぎゅっと抱き締めてくれたのだった。
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