内気な私に悪役令嬢は務まりません!

玉響

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学園二年生編

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「アル………フレッド様………」

一番見られたくない瞬間を、一番見られたくない人に見つかってしまった。
私は慌ててオルティアから離れようとするけれど、がっしりとしたオルティアの腕が私の体を離さない。

「オルティア…………あの………?」

涙は一気に引っ込む。
どうして離してくれないの?これじゃあまるで抱き合っている恋人同士みたいに見えてしまう。
私はオルティアの胸に手を当てると脱出を試みるけれど、鍛え抜かれたオルティアの腕に適うはずもなく、びくともしなかった。
すると、大股で歩み寄ってきたアルフレッド様が、オルティアから奪い去るように私の体を抱き寄せた。

「授業が始まっても戻ってこないと思ったら………一体なんの真似だ?」

アルフレッド様は威嚇するようにオルティアを睨み、それから私を抱く腕に力を込めた。

「彼女は、私の………この国の王太子の婚約者だ。お前のような下位貴族が手を出したらどうなるか………分かっていての狼藉か?」

アルフレッド様の視線は、これ以上にないくらいに冷たく、視線だけで人が殺せるんだとしたら、オルティアは間違いなく死んでいただろうというくらいの威力だった。
そして、真近でその様を見つめていると、たまらなく怖かった。

「狼藉?とんでもない。弁明させて頂けるならば、全くの誤解ですよ、殿下」

眉一本動かさずに、堂々と告げたオルティアはやっぱりかっこいいと思うけれど、かっこいいと思っちゃいけない気がする。その自分の心の矛盾に、少し戸惑いを感じた。

「………ふぅん?」

アルフレッド様は目を細めて、訝しげな顔をした。
それにたじろぐ様子もなく、オルティアはごく自然に口を開いた。

「ジュリアは、クラスメイトの令嬢方から嫌がらせを受けていたのです。………それを私に打ち明けてくれている最中に、泣き出しまったので、慰めようとしていただけで、やましい気持ちは一切ありませんよ。………それよりも、ジュリアを慰めて差し上げてください」

そう言ってオルティアは私をちらりと見ると、いたずらっぽく微笑んだ。
………隠していたはずなのに、オルティアはいつからそのことを知っていたんだろうという驚きと、こんなにも堂々と、王太子に向かって嘘をつけるオルティアの度胸に対する感嘆から、私は目を瞬いた。
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