内気な私に悪役令嬢は務まりません!

玉響

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学園二年生編

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「ここにくるのなんて、いかついおっさんばっかりでしょう? なーんか、うっぷんがたまって時々こうなるのよ……ゆるしてやって」
 醜態しゅうたいをさらす同僚どうりょうを、鬼娘オルコしぶいかおでみつめる。

 まー、めし処みせの客もそんなだったから、気持ちはわからなくもねえ。
 といっても、もとの姿のおれぁ、いかつさでも、おっさんっぷりでも、まちがいなくこの町で一番だったろうが。

「なによ、知りあいなの!? しょうかいして!」
 いきかえった狐耳きつねみみが、鬼娘オルコにとびつく。
「ふぅー……こちらは、わたしとおなじく〝受付担当うけつけたんとう〟のリカルル」

「リ、リリリリリリリリッ、リカルル・リ・コントゥルよ。コ、コントゥルに名をつらねているわ」
 〝り〟がおおいな。
 とにかく、攻撃してきたわけじゃねえなら、よかったぜ。
 なんせ、おれのうしろあたまにはみじかぼう……独鈷杵とっこしょのかたちをした〝神の代理〟がはりついてるからな。なにがどうなるかわからん。

「(おい、よっぽどのことがなけりゃ、おまえは手を出すなよ?)」
「(はい、マスター)」

「(それと、〝こんとり〟ってのはなんだ?)」
「(コントゥル、おそらくは伯爵はくしゃく……藩主はんしゅにつらなる家名かめいと思われます)」
 なるほど、本当に姫さんってわけか。
 その姫さんの目がまっすぐに、おれのうしろあたまを見据えてる。

「(おい、この内緒話……聞こえてねぇんだよな?)」
「(はい、そのはずです)」

「うふふ♪ よろしくおねがいいたしますわ、小さな女神さま」
 背筋をただした狐耳ひめさんが、かた足を引いて姿勢しせいをわずかにさげる。
 挙動不審きょどうふしんさがナリをひそめると、急にたちふる舞いが立派りっぱになった。

 ちっ、大名の娘から名のられたら、こっちも名のらないわけにはいかねえ。

猪蟹ししがに……シガミーだ」

「シガミーちゃん!? 聞いたことのないひびき! すてき!」
 また飛びついてきたから、とっさに近くの椅子いすとかいう腰掛こしかけを蹴りあがった。

 このぐあいの良い下駄げたは――くつって言ったか?
 こいつなら、かべどころか天井てんじょうだってはしれそうだ。

 おれは日のひかりをはっする石に飛びついて、ぶら下がる。

「あら? 獣人並みの身がるさ」
「す……て……きっ!」
 狐耳ひめさん狐眼きつねめが、ひかりをおびていく。
 その眼やめろ。むかし、山中で出くわしたオオカミを思いだすから。

「あなたは仕事にもどって。シガミーの担当たんとうは、わたしがやります」
 狐耳ひめさん窓口長机かうんたあおくに追いやられた。

「じゃあ、またねーシガミーちゃぁぁん♡」
 だからその獲物えものをねらう眼はやめろ。

「まったく。……シガミーには盗賊とうぞくが向いてるわよ……魔術師まじゅつしよりはよっぽど」
 なにかを紙に書き込んでいく鬼娘オルコ

「おれはぞくになるつもりはねえぞぉ? 女将おかみにせっかんされちまう」

「あははは。盗賊とうぞくっていうのは――――「(軽業師かるわざしのことです)」――――短剣とすばやさでたたかう職業しょくぎょうのことよ」
 短い棒すだれが話してるあいだは、まわりがとまってみえるから、急にやられると息がとまる。

「じゃあ、ちょっとこっちに来てくれる?」
 立ち上がった鬼娘オルコが手まねきをした。

   §

 小さなとびらをくぐり、ほそい通路つうろおく
 突き当たりに置いてあったのは、仏像ぶつぞう
 それはとても立派りっぱなつくりで、おおめしらいの女神〝五百乃大角いおのはら〟にどことなく似ていた。

「(〝イオノファラー〟です。マスター)」
 その仏像ぶつぞうはこを手にしていて、同じようなのが背中にもたくさんついてる。
 仏像これが、あの〝大めし喰らいいおのはら〟を表してるのはまちがいねえ。

「じゃあ、そこにカードを差し込んで」
 いわれるままに、女将おかみにもらった板っぺらかあどをさしこむ。

「それと、お金はちゃんと持ってきた?」
 金? おかみにもらった、めし代ならあるが――ちゃりん♪

「ああああっ、おれの金っ!」
 とりだした5ヘククの全部を、箱の横穴に投げこまれた!

ーーー
※独鈷杵/帝釈天の雷系武器。密教では煩悩をうち払うお守り。
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