25 / 61
学園一年生編
25(アルフレッド視点)
しおりを挟む
入学から半年が経ったある日、事件は起きた。
男女別の授業の帰りに、ジルが階段から落ちたのだ。遠くからその様子を見た私は、目の前が真っ暗になった。
どうにかして助けなければ………!
持っていたものをかなぐり捨てると、私は全速力で階段へと駆け出すが、間に合わない。
「くそっ!」
と。
落下するジルを、オルティアが見事に受け止めたのだ。
その様は、まるで姫君の危機を救った本物の王子のようだった。
ジルが怪我をせずに済んだのは本当に良かったが、助けたのがあいつだということが、無性に腹立たしかった。
その上、奴は鼻先がくっつきそうな程に顔を寄せて、ジルを覗き込んでいて、ジルは顔を赤らめているではないか。
「ジル!!」
私は二人に駆け寄ると、オルティアを睨みつけた。
ジルが怖がるかもしれないが、今は奴から引き剥がすのが先だ。
「オルティア、ジルを離せ」
するとオルティアは素直にジルを解放する。
「……お姫様の危機を救うのが王子様の役割のはずでは?そんな事では、大切な姫君をどこの馬の骨ともしれない輩に横取りされるかもしれませんよ?」
そう言ってオルティアはくすりと笑った。
「何だと……?」
思わず殴り掛かりそうになるのをぐっと堪えると、私はジルを呼びつけた。
「ジル!こっちに来るんだ」
そう言って、彼女の様子を観察する。……やはり脅えているようだ。
歩み寄る彼女を抱きすくめ、オルティアから隠すような格好を取る。
「……ジルを助けてくれたことは、礼を言う。だが、ジルに気安く触るな」
オルティアは一瞬、怒りを浮かべたけれど、何も言わず、くるりと背を向けてその場を立ち去っていった。
私は安堵の溜息をつき、ジルを抱え上げる。
「ネイサン。ジルの体調が良くないようだから早退すると、伝えておいてくれ」
「え、あ……あの、殿下?!」
後ろに付いてきていたネイサンにそう告げ、歩き出した。
「アルフレッド様……私、怪我はしていませんし、具合も悪くないです……」
珍しく、ジルが意見してきた。オルティア絡みだと口数が増えるのは私の思い過ごしなのだろうか?………だが、不愉快だ。
「……ジル。あれほどオルティアには近づかないようにと言ったはずだけど?」
いつものように穏やかな態度を取ろうとするが、上手くいかない。怒りが先に出てしまう。
「……あの、あれは……不可抗力で……」
「不可抗力なのは分かっている。悔しいが、あいつのお陰でジルが怪我をせずに済んだのも事実だしね。……でも、私が怒っているのは、君がオルティアを見つめていた事だ。……まさか、ジルはオルティアに気があって、彼の気を引くためにわざと階段から落ちたんじゃないよね?」
ジルはそんな事をする子ではないと分かっているけれど、敢えて私は質問してみた。
するとジルは慌てて首を横に振る。
「……そんな、私は……」
ジルは今にも泣き出しそうになった。………ああ、堪らない表情だ………。
「……真っ青な顔をして……あぁ、冗談だよ。私のかわいいジル。君がそんなことをする子じゃないって、分かっているからね」
これ以上苛めるのは危険だと思い、私は慌てていつもの穏やかな王太子の仮面をかぶる。
「死ぬかもしれないと思ったら、凄く怖かったです……」
そう言って、ジルは涙を零す。
……ああ、やはり彼女の泣き顔は最高だ。
私は笑みを浮かべた。
男女別の授業の帰りに、ジルが階段から落ちたのだ。遠くからその様子を見た私は、目の前が真っ暗になった。
どうにかして助けなければ………!
持っていたものをかなぐり捨てると、私は全速力で階段へと駆け出すが、間に合わない。
「くそっ!」
と。
落下するジルを、オルティアが見事に受け止めたのだ。
その様は、まるで姫君の危機を救った本物の王子のようだった。
ジルが怪我をせずに済んだのは本当に良かったが、助けたのがあいつだということが、無性に腹立たしかった。
その上、奴は鼻先がくっつきそうな程に顔を寄せて、ジルを覗き込んでいて、ジルは顔を赤らめているではないか。
「ジル!!」
私は二人に駆け寄ると、オルティアを睨みつけた。
ジルが怖がるかもしれないが、今は奴から引き剥がすのが先だ。
「オルティア、ジルを離せ」
するとオルティアは素直にジルを解放する。
「……お姫様の危機を救うのが王子様の役割のはずでは?そんな事では、大切な姫君をどこの馬の骨ともしれない輩に横取りされるかもしれませんよ?」
そう言ってオルティアはくすりと笑った。
「何だと……?」
思わず殴り掛かりそうになるのをぐっと堪えると、私はジルを呼びつけた。
「ジル!こっちに来るんだ」
そう言って、彼女の様子を観察する。……やはり脅えているようだ。
歩み寄る彼女を抱きすくめ、オルティアから隠すような格好を取る。
「……ジルを助けてくれたことは、礼を言う。だが、ジルに気安く触るな」
オルティアは一瞬、怒りを浮かべたけれど、何も言わず、くるりと背を向けてその場を立ち去っていった。
私は安堵の溜息をつき、ジルを抱え上げる。
「ネイサン。ジルの体調が良くないようだから早退すると、伝えておいてくれ」
「え、あ……あの、殿下?!」
後ろに付いてきていたネイサンにそう告げ、歩き出した。
「アルフレッド様……私、怪我はしていませんし、具合も悪くないです……」
珍しく、ジルが意見してきた。オルティア絡みだと口数が増えるのは私の思い過ごしなのだろうか?………だが、不愉快だ。
「……ジル。あれほどオルティアには近づかないようにと言ったはずだけど?」
いつものように穏やかな態度を取ろうとするが、上手くいかない。怒りが先に出てしまう。
「……あの、あれは……不可抗力で……」
「不可抗力なのは分かっている。悔しいが、あいつのお陰でジルが怪我をせずに済んだのも事実だしね。……でも、私が怒っているのは、君がオルティアを見つめていた事だ。……まさか、ジルはオルティアに気があって、彼の気を引くためにわざと階段から落ちたんじゃないよね?」
ジルはそんな事をする子ではないと分かっているけれど、敢えて私は質問してみた。
するとジルは慌てて首を横に振る。
「……そんな、私は……」
ジルは今にも泣き出しそうになった。………ああ、堪らない表情だ………。
「……真っ青な顔をして……あぁ、冗談だよ。私のかわいいジル。君がそんなことをする子じゃないって、分かっているからね」
これ以上苛めるのは危険だと思い、私は慌てていつもの穏やかな王太子の仮面をかぶる。
「死ぬかもしれないと思ったら、凄く怖かったです……」
そう言って、ジルは涙を零す。
……ああ、やはり彼女の泣き顔は最高だ。
私は笑みを浮かべた。
30
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説

幽霊じゃありません!足だってありますから‼
かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。
断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど
※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ
※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです
灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。
それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。
その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。
この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。
フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが……
ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。
他サイトでも掲載しています。

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい
麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。
しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。
しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。
第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる